炭素のためのナノ安全コンソーシアム(NCC)の戦略が少しずつ明らかに。

4月に、炭素のためのナノ安全コンソーシアム(NanoSafety Consortium for Carbon:NCC)設立の件を書いたが、この半年、着々と目標に向かって進んでいるようだ。 コンソーシアムの当面の課題は、TSCAにおける製造前届出(PMN)に対して米国環境保護庁(EPA)が出した同意指令(Consent Order)において命じられた「ラットへの90日間吸入曝露試験」を何件(or どれくらい本気で)やらなければならないのか、だ。彼らによると、90日間吸入曝露試験は1件あたり、35〜50万ドル(3〜4千万円)かかるという。これを何回やらされるのかが多様なナノ材料の市場化においては重要となる。この問題は言い換えると、何をもって「同一のナノ材料」と見なすかという問題である。PMNについても、同じ名称で複数件提出している企業もあれば、1つだけ提出している企業もある。メーカーのウェブサイトでは、ナノ材料はグレードや形状によって複数種類掲載されている場合が多い。そのような場合に、全種類に「ラットへの90日間吸入曝露試験」を実施しなくてはならなくなれば商売にならない。


他方で、TSCAの監督官庁であるEPAの方でも、現状ではPMNが提出されたナノ材料1つ1つに対して順番に同意指令を出しているのが現状で、何をもって同一材料とみなすかについて確固としたポリシーを持っているわけではない。ただし、9月17日に連邦官報(FR)に掲載されたSNURの最終ルールにおいて、「異なる製造業者や異なるプロセスで製造されるCNTは、TSCAのもとでの新規物質報告の目的にとっては、異なる化学物質であると考えられるだろう(may be)とEPAは認識している。この決定はケースバイケースで行うつもりである」と書かれている。


このコンソーシアムが設立された理由はまさにそこにあり、EPAが何らかの決定をしてしまう前に、先手を打ってTSCAのもとでのナノ材料の有害性試験制度を提案してしまおうというものである。NCCのウェブサイトで公開されている「鍵となる文書」ページに掲載されている文書からその戦略を除き見ることができる。


2010年3月26日、EPAのOPPTのJim Alwood氏に、NCC立ち上げをお知らせするとともに、TSCAの第4節あるいは第8節のものとで公布される試験ルールについての「相互に合意可能な制度」を目指して、直接話し合いの場を持ちたいという意思を伝えた。これに対して、2010年5月5日、Alwood氏は、歓迎するとしながらも、会合のセッティングは避け、NCCに具体的な提案を求めた。2010年6月11日、NCC側は、メンバー企業の製造または輸入する製品のリストをAlwood氏に提出した。MWCNTが7種類、DWCNTが2種類、SWCNTが6種類。それぞれについて、直径、アスペクト比、長さの情報が付けられている。さらにその他の製品が6種類。


その後、NCCの管理委員会は、NCCの諮問委員会と外部連携者に対して、NCCがこの秋にEPAに提案する多段階試験制度案を検討してもらうように依頼することを議決した。

多段階試験制度の原案は以下のとおり。

  1. 第1段階:OECD and/or ISOの基準に基づく材料のキャラクタリゼーションを実施。
  2. 第2段階:NIOSHのガイドラインや文書に基づき、彼らと共同で作業環境の評価を実施。
  3. 第3段階:製造プロセスでの潜在的なEHSリスクやハザードを考慮した、焦点を絞ったライフサイクル分析の実施。
  4. 第4段階:工場からナノスケールの炭素材料があらかじめ定めたレベルを超えて水域に放出されていないことを確認するためのモニタリングプログラムの作成と実施。
  5. 第5段階:OECD修正版 and/or EPA OPPT試験ガイドラインに基づく、MWCNT(DWを含む)、SWCNT、フラーレングラフェン、カーボンナノファイバーの精製された代表的サンプルの90日間吸入曝露試験のための科学的手法の探求。
  6. 第6段階:すべての得られたデータと情報のEPAへの提供。最終試験結果の公表と普及(メンバーの知財の適切な保護とともに)

要するに、各ナノ材料の代表サンプル1つにつき1回だけ吸入曝露試験をやればよいという提案である。つまり、例えば、MWCNTは誰が作っても1つのMWCNTとしてTSCAで管理するという提案である。この案を、諮問委員会と外部連携者がレビューし、修正したものをEPAに提案する。8月時点では9月中に提案する予定となっていたがその後どうなったかのだろうか。そろそろプレスリリースがあるかもしれない。

ちなみに、4月時点では諮問委員会(8名)しかなかったものが、現在は、諮問委員会(6名)と外部連携者(5名)に分けられている。何らかの理由で、行政機関の研究機関に属する研究者を諮問委員会から外して外部連携者というジャンルを作ったようだ。EPAに対抗する組織に、行政機関の研究者が直接関与するのはまずいというような判断があったのかもしれない。

諮問委員会メンバーリスト

Steffi Friedrichs氏(NIA、業界団体)
Bettye Maddux氏(University of Oregon、毒性学)
Jeffrey Morse氏(University of Massachusetts Amherst、工学)
Günter Oberdörster氏(University of Rochester、吸入毒性学)
Kent Pinkerton氏(University of California, Davis、吸入毒性学)
Mark Tuominen氏(University of Massachusetts Amherst、化学工学)

外部連携者リスト

Vince Castranova氏(NIOSH、労働衛生・有害性評価)
Chuck Geraci氏(NIOSH、労働衛生・曝露評価)
Laurie Locascio氏(NIST、生化学)
Jeffrey A. Fagan氏(NIST、化学)
Jeffery A. Steeven氏(US Army Corps of Engineers、薬物毒性学)