米国EPAがTSCAのもとでCNTについて発行したSNUR最終ルール(その1)

米国EPAは9月17日付の官報において、2種類のカーボンナノチューブ(CNT)のSNUR(重要新規利用ルール)の最終ルールを公布した。対象は、PMN P-08-177(多層CNT)とPMN P-08-328(単層CNT)と書かれているが、これは英国のThomas Swan社の単層CNTと多層CNT(商標名"Elicvarb")である。SNURの内容の分析に入る前にこれまでの流れを追ってみよう。


商業目的で年間10トン以上の新規化学物質を米国において製造または輸入する企業は、製造または輸入の開始の90日以内にEPAに製造前届出(PMN)を提出する必要がある。EPAのウェブサイトから見ることができる。多層CNTは2008年1月14日に提出され、単層CNTは2008年3月25日に提出されている。PMNを受け取ったEPAは簡易なリスク評価を実施したうえで、一定以上のリスク(unreasonable risk)を課すおそれがあると判断されれば、EPAからはTSCA sec.5(e)に基づき、同意指令が出される。この同意指令はPMN申請者に対して出されるが、通常は当該化学物質を取り扱う全事業者に適用できるようにSNUR(重要新規用途ルール)という規制になる。ところが、CNTの場合、EPAが現在、PMNの申請1件ごとに「1つの化学物質」として扱っているために、同意指令とSNURの対象はともに特定のCNTなので両者の違いが不明確となる。ここが最もややこしい点だ。以下に、両者の流れを時系列に整理してみる。


2008年1月14日、多層CNTのPMNをEPAに提出

2008年3月25日、単層CNTのPMNをEPAに提出

2008年9月頃、EPAが同意指令を発行

2009年6月24日、SNURの直接最終ルールを発表

2009年8月21日、最終ルールの撤回(発効予定日は8月24日だった)

2009年11月6日、SNURの提案ルールを発表

2010年9月17日、SNURの最終ルールを発表(10月18日に発効予定)。


SNURは通常の規制制定手続きに沿って進められる。通常は、提案ルール(proposed rule)を発表し、パブコメとOMBの審査を経て、最終ルール(final rule)となる。直接最終ルール(direct final rule)とは提案ルールを経ないでいきなり最終ルールとするものであるが、その代わりに1か月以内に反論(あるいはその提出意図)があると撤回しなければならない。実際に当該2物質に対してあったため、一度撤回し、11月に改めて提案ルールからスタートしたというわけである。