EPAが費用便益分析を根拠に規制緩和を提案・・・環境保護団体から提訴

EPA長官が6月1日に,冷却水の取水に関する規制に署名したことに対して,環境保護団体から訴訟が起こされた.理由は,費用便益分析の結果に基づいて(全国一律の規制を断念するという)決定が行われたことはClean Water Actに違反しているというもの.発電所などによる冷却水の取水や熱水の排出は,魚類などの水系の生態系に悪影響を及ぼす.冷却水の取水に関する規制は,Clean Water Act (CWA)のSec.316(b)に基づいており,そこには「冷却水の取水は,環境への悪影響を最小にするための利用可能な最善の技術(best technology available)を利用する」こととされている.

CWAのSec.306には,新規排出源には,best available demonstrated technology (BADT)を,既存の排出源には,best practicable technology (BPT)を,ある種の汚染物質には,best available technology (BAT)を適用せよと指示している.しかしながら,これらの用語の定義は書かれていない.しかし合衆国法典(US Code)(33 U.S.C. 1314(b)(1)(B))には,技術の適用から得られる便益と費用を考慮に入れるように明記されている.Sec.316(b)の “best technology available”とBATはほぼ同義だろうと推測でき,これを根拠に,EPAは費用と便益を考慮することができると解釈した.そして,次のように書いた.

全国ルールを設定する費用がその便益を大きく上回るときは,Sec.316(b)に基づく全国ルールは経済的に実行可能(economically practicable)ではなく,それゆえ,「環境への悪影響を最小にするための利用可能な最善の技術ではないだろう(Page 35010).

そして実際,費用は便益を大きく上回っていた(Economic and Benefits AnalysisのChapter E3を参照).これに対して,原告側弁護士は,「費用や便益を考慮せよというのは,法外に費用の高い規制はやめとけということであって,費用便益分析をパスせよと要求しているわけじゃない」と主張.確かにこれも頷ける.EPAはこれまでも費用便益分析を参考にして規制を緩めたことはあったが,明示的に費用便益分析を根拠にして規制を緩める提案を行ったのは今回が初めてのケースらしい.