米国EPAがTSCAのもとでCNTについて発行したSNUR最終ルール(その2)

今度はSNUR(最終ルール)の内容を検討する。※印は追加情報や感想である。2009年11月6日の提案ルールに対していくつかのコメントが寄せられ、13のコメントとそれらへの回答が第V節に書かれている。また、CNTのヒト健康影響と環境影響についての要約が第V節の最後に付いている。これらを加味して今回の最終ルールとなった。


補足情報の第I節は、誰がこのルールの適用を受けるのかについて解説している。「もしあなたが最終ルールに含まれている化学物質のいずれかを製造、輸入、加工、使用するならば影響を受ける可能性がある」と書かれており、この化学物質とは、PMN P-08-177(※Thomas Swan社の多層CNT)とPMN P-08-328(※Thomas Swan社の単層CNT)であることが明記されている。


第II節では背景が説明されている。A「EPAはどのようなアクションをとっているのか?」、B「どのような権限に基づいてそのようなアクションをとっているのか?」、C「一般的条項の適用可能性」からなる。Aでは、コメントを受けてどのような修正が行われたかについて簡単にまとめられている(詳しくは第V節で述べられている)。重要な点として、SNURの適用免除条件が挙げられている。

  • 完全に反応(硬化)し終わったもの
  • 完全に反応(硬化)し終わったポリマーマトリクスに埋め込まれたもの
  • 永久に個体のポリマー型に埋め込まれたもので、機械加工を除きこれ以上加工されないもの

Bには、いったんSNURが発効すると、TSCAの第5(a)(1)(B)により、その用途で当該化学物質を、同意指令およびSNURで定められた量を超えて製造・輸入・加工する場合はその90日前までにEPAに「重要新規用途通知(SNUN)」を提出しなければならないことが書かれている(その際に同意指令で推奨された90日間吸入曝露試験を実施していなければ、EPAは規制措置を発動する可能性が高くなる)。


第III節はルールの根拠と目的が、第IV節には重要新規用途の決定根拠が書かれている。2つの化学物質を重要新規用途であると判定するために考慮した情報は、TSCA sec.5(a)(2)に書かれている一般的な4項目に加えて、「当該化学物質の有害性、ヒト曝露、環境への放出についての関連する情報」と書かれている。


第V節は提案ルールに寄せられたコメントとそれらへの回答である。コメントは13点挙げられているがその中からいくつかメモした。

SNURは当該化学物質をきちんと特定していない(コメント1)

CNTsの命名法がまだ確立されていないので、PMN提出者には「形状の特徴(specific structural characteristics)」を示してもらうことで代替してもらったが、その詳細はCBIとなっている。「EPAは、TSCAのもとで新規化学物質として提出されたすべてのCNTについて、TSCAインベントリにそれらの化学物質を載せるための標準的命名法を作成するために、それぞれの形状の特徴を利用している」とのことである。その「形状の特徴」は、「分子的同一性(MI)の決定と命名のための材料のキャラクタリゼーション」という文書にまとめられている。

他の製造業者が作ったPMN物質にもSNURが適用されることを意図しているのかどうかEPAは明確にすべき(コメント2)

当該SNURは特定のCNT(ここでは、PMN P-08-177とPMN P-08-328の2つのみ)にのみ適用される。「EPAは、TSCAのもとでの新規化学物質を報告するという目的のためには、異なる製造業者や異なるプロセスによって製造されたCNTは異なる化学物質であると考えられるだろう(may be)と認識している」と書かれている。

下流のユーザーがCNTを加工した場合に新規物質となる場合があるのか(コメント3)

新規の化学結合などが形成される場合は新規化学物質となるが、物理的状態や物理的特性の変化だけならTSCAのもとで新規物質とみなされることはないと回答している。これは新規性を判断するのにサイズなどは考慮しないというEPAの立場の再確認といえるだろう。

同意指令にあった免除規定がSNUR(提案ルール)にはなかったがどうなったのか?(コメント5)

同意指令にあったすべての免除規定はSNURに含まれるべきと回答しており、提案ルールには抜けていた、先に挙げた3点の免除規定が最終ルールには明記されている。

EPAは「水域への予測可能な、あるいは意図的な放出」の意味を明確にすべき(コメント9)

ろ過装置を経たとしても「予測可能な、あるいは意図的な放出」とみなされるが、分子1つも逃さないという意味ではないとされている。「予測可能な、あるいは意図的な放出」という文言はこれまで数百のPMNのSNURに含まれてきたとのことであるので、どういう運用がされてきたか経験的に分かるはずである。そして「特定のCNTについての毒性、曝露、運命についての情報が利用可能になれば、これらのSNURにおいて、水域への受け入れ可能な放出レベルを確立するという代替案をEPAは喜んで検討する」とされている(※この文言は予防原則的な言い回しであり、毒性試験の結果から自主的な排水基準値を提案する余地があると解釈してよいのかもしれない)。

EPAは、SNURを発行する前に、「不合理なリスクが存在するかもしれないこと」の証拠を示すべきだ(コメント12)

SNURを発行するための要件(sec. 5(a)(2))には、「不合理なリスクが存在するかもしれないこと」を示すことは含まれていない。しかし、PMNレビューの結果として発行される同意指令([ttp://www.epa.gov/opptintr/newchems/pubs/possible.htm:title=sec.5(e)])には、「リスクに基づく同意指令」と「曝露に基づく同意指令」があり、前者の場合は「不合理なリスクが存在するかもしれない」ことをEPAが示す必要がある。そのために用意されているのが、「カーボンナノチューブのヒト健康および環境影響のEPAの現在の評価の要約」という文書である。

最近の同意指令は、この2つの化学物質の同意指令には含まれていない最新のハザード情報が含まれているので、それらをSNUR(最終ルール)にも参照すべき(コメント13)

その通り。最新のハザード情報は、第V節の最後の2パラグラフにまとめられている。


CNTは、EPAが経験的に設定した56のカテゴリーのうちの「呼吸可能な不溶性の粒子(Respirable, Poorly Soluble Particulates)」カテゴリーに属すると判定されており、このジャンルの「一般的な試験戦略」として、「肺組織の病理組織学(炎症と細胞増殖)とBALFの様々なパラメータ(マーカー酵素活動、総タンパク、総細胞数、細胞分化、細胞生存性)に特に注意を払った、ラットの90日間吸入毒性試験と、試験終了後60日間の観察期間」を実施することが記されており、同意指令での要求の根拠はここにあったことが分かる。また、90日間吸入曝露試験において発がん可能性が示唆されたら、ラットでの2年間の吸入曝露試験が必要になるとも書かれている。「CNTのヒト健康影響の要約」では、上記の同カテゴリーの物質や他のCNTも含めた有害性試験情報から、「肺毒性、繊維症、発がん性、変異原性、免疫毒性についての懸念がある」と判断され、また、肺への沈着によって循環器系への毒性を引き起こすかもしれないことも指摘されている。また、「CNTの環境影響の要約」は省略。以下の節も省略。