携帯電話と神経膠腫

北欧では携帯電話の普及が早かったために,10年以上の長期曝露の健康影響を調べた疫学の結果が最近出てきている."Mobile phone use 'linked to tumour'"(携帯電話の使用が「腫瘍に関連している」)と題するニュース記事が出ていた(link).その元となった論文はこれ.

  • Lahkola, A. et al. Mobile phone use and risk of glioma in 5 North European countries. International Journal of Cancer. 2007 Jan 17;120(8):1769-1775(link).

アブストを読んだ感じでは,Telegraph紙の見出しは煽りすぎで,著者らは「われわれの結果全体は携帯電話の使用に関連した神経膠腫の増加リスクは示していないが,長期間の使用に伴う脳の最も曝露量の多い場所における潜在的なリスクについては,しっかりした結論を出す前にさらに調査を行う必要がある」とまとめている.
疫学調査の内容は,北欧5カ国の神経膠腫になった1,521人を症例群,がんになっていない3,301人を対照群として比較した.全体で比較すると携帯電話使用と神経膠腫の間には,使用期間,初めて使ってからの年数,電話使用累積回数,電話使用累積時間のどれとも相関が見られなかった.線形のトレンドを調べると,電話使用累積時間のみオッズ比が1.006(95%信頼区間1.002〜1.010)(100時間あたり)と有意な相関があった.また,携帯電話を10年以上使用している人たちだけを症例群とすると,携帯電話を使用するサイドの頭部に神経膠腫ができるオッズ比が1.39(95%信頼区間1.01〜1.92, p trend 0.04)と,ぎりぎり統計的に有意となった.頭の逆側ではオッズ比は0.98 (95%信頼区間0.71〜1.37).
ちなみにスウェーデンでの研究では,長期曝露の影響は否定されている.

  • Lonn, S. et al. Long-term mobile phone use and brain tumor risk. American Journal of Epidemiology 2005 Mar 15;161(6):526-35(link).