オーストラリアのナノ材料インベントリー
オーストラリアでは2006年2月,Australian Department of Health and Aging(オーストラリア保健・発育省)は,NICNASの出版物である"Chemical Gazette"の2月号を通して,2005〜2006年の間に,ナノ材料やナノ製品を製造したり輸入したりする者に対して,ナノ材料に関する情報を自発的に提供するように呼びかけた.提供を呼びかけた情報は具体的に3点.
- 化学物質の名前,商品名,化学式(CAS番号)
- オーストラリアに輸入された(原料としてあるいは製品中),あるいはオーストラリアで生産された,ナノ材料の総量(kg/年)
- ナノ材料の工業利用,ナノ材料を含む製品,製品中のナノ材料の濃度,消費者が入手可能であるかどうか
ただし,化粧品と医薬品・食品と食品添加物・農業用動物用化学製品などはNICNASの管轄外なので対象とならなかった.
情報提供の結果は2007年1月に"Summary of call for information on the use of Nanomaterials"(ナノ材料の使用に関する情報提供呼びかけのまとめ)として発表された.21種類の有機および無機のナノ材料が報告された.このうち4種類は研究開発用途のみで,17種類が商業用に利用された.Table 1を和訳して載せた.
化学物質名 | 用途 | 総量 |
---|---|---|
アクリルラテックス | 表面塗装 | 10,000-50,000 |
酸化アルミニウム | 印刷 | 0.05-0.1 |
ケイ酸アルミニウム | 水処理 | 10-50 |
カーボンブラック顔料 | 表面塗装 | 10-50 |
シュウ酸セリウム | 触媒 | 1-5 |
酸化鉄 | 表面塗装 | 1-5 |
化粧品 | <0.01 | |
パールパウダー | 化粧品 | 0.01-0.05 |
フタロシアニン | 表面塗装 | 10-50 |
ウレタン樹脂 | 表面塗装 | <0.01 |
ジメチルシリル化シリカ | 化粧品 | <0.01 |
二酸化ケイ素 | 表面塗装 | 10-50 |
水処理 | 0.05-0.1 | |
ケイ酸ナトリウム | 水処理 | 0.1-0.5 |
表面処理した二酸化ケイ素 | 印刷 | 1-5 |
表面処理した酸化アルミニウム | 印刷 | 0.1-0.5 |
表面処理した酸化チタン | 印刷 | 0.5-1 |
二酸化チタン | 水処理 | 5-10 |
国産品 | 1-5 | |
化粧品 | 1-5 | |
酸化亜鉛 | 表面塗装 | 5-10 |
化粧品 | 1-5 |
すべてのナノ材料は(多くの場合製品として)輸入され,アクリルラテックス,酸化亜鉛,酸化セリウム,二酸化ケイ素はオーストラリア国内でも生産された.15社がナノ材料(あるいはナノ材料を含む製品)を輸入,4社が製造,さらに4社が計画していると報告.自発的な情報提供を求めたものなので,必ずしもオーストラリア全体を代表した結果ではないが,かなり積極的に主要企業に働きかけたようで,全体像は描けていると判断している.特に,オーストラリアのFriends of the Earthが2006年5月に出した報告書 “Nanomaterials, sunscreens and cosmetics: Small ingredients, big risks”に挙げられているような企業には個別にコンタクトをとったらしい.
ただし,化粧品については,「ナノ」の定義が広いために,NICNASの定義(<100nm)による情報提供に必ずしも該当しない「ナノ」がある.挙げられている典型的なサイズ幅は以下のとおり.
- ナノエマルジョン:20-500nm
- リポソーム:100-300 nm
- オレオソーム(oleosome):150-500 nm
- ナノカプセル:100-600 nm