9.11テロの間接影響−リスクを避けようとして増えたリスク*1.

一度に多数の人が亡くなるような出来事は人々の印象に強く残りやすい.1年間に交通事故で数千人亡くなっていることと,一度の事故や災害で数千人亡くなることの意味は(たとえ合理的でないとしても)大きく異なる.こういうめったに起こらないが,いったん起こると大きな損害をもたらすようなリスクを「ドレッド・リスク(dread risk)」と呼ぶ.9.11テロはまさにそういうリスクだった.
アメリカ人は航空機での移動を極度に恐れて,国内移動をクルマに切り替えた.そして何が起こったかというと,自動車事故死者の増加だ.Gigerenzer氏はまず3つの「ドレッド仮説」を立てた.

(1)テロ以降,アメリカ人は航空機の利用を減らした.
(2)目的地へ向かうためにクルマの利用が増えた.
(3)その結果,自動車事故で死ぬ人が増えた.

統計データを見れば,(1)と(2)はすぐに証明できる.(3)については,過去5年間の死者数からの乖離を1ヶ月ごとに計算することで検証した.そうするとテロから1年間のほとんどの月が過去5年間のどの年よりも死者数が増加していた.1年を過ぎると平均値付近に回帰していた.このことから,航空機テロを恐れるあまり逆に自動車事故で死んでしまった人は1595人いたと推計された.これはテロにあった4機の航空機に乗っていて亡くなった256人よりもずっと多い.