リスク評価に役に立つ社会科学とは?
英国Royal Societyが,Food Standards Agency (FSA)の要請にこたえて企画したワークショップ(2005年9月開催)の報告書が出た(link).社会科学的知見がどのようにリスク評価に生かせるかという問題意識から,「BSEの30ヶ月ルール」と「魚消費のリスクとベネフィット」のケーススタディを通して,次の5つの原則を導いた.
原則1:利害関係者と一般市民は(それが適切なら),専門家の科学諮問委員会に問いかけられる問題の設定のされ方(framing)について意見を求められるべきだ.
設定の仕方そのものがズレていたら,評価が終わってからいくらがんばってもコミュニケーションはそもそも成り立たない.最も初期のこの段階から意見を取り入れるべきというのは鋭い.
原則2:リスク評価,管理,コミュニケーションについて情報を提供する循環的・反復的なプロセスを作るべきだ.
原則1の話を全体のプロセスに広げるとこうなる.「専門家による分析」と「利害関係者による議論」のそれぞれがそれぞれに対して有用な情報を与えるという相互作用.
原則3:リスク評価における仮定と不確実性をきちんと認識すべきだ.
ここで言う「仮定」は自然科学的な仮定ではなく,リスク評価の前提となる人々の行動に関する仮定の話.社会科学者はフィードバック(リバウンド効果など)を含めた人々の行動に関する知見を解析の中にインプットすることが期待されている.また,不確実性を恐怖を喚起させずにどのようにして正しく伝えるかという知恵も期待されている.
原則4:一般市民や利害関係者の参加が,プロセスの様々な段階に広げられるべきだ.特に,論争の的となっている問題や不確実性が非常に大きい分野.
社会科学は,参加や関与(engagement)のための技術をすでにいろいろ持っているらしい*1.しかし,自然科学者にはあまり知られていないという.
原則5:誰に向かった報告しているのかはっきりさせ,彼らにとって大事なことをコミュニケートすることが重要である.
誰に対して発しているのかはっきりさせることは重要.また,結局,マスメディアを通してコミュニケートされることが多いので,彼らをどうやって使っていくかというのも社会科学に期待されている仕事だそうだ.