食品のリスクとベネフィット

日本の食品安全行政は,リスク評価とリスク管理を区別して,前者を食品安全委員会,後者を厚生労働省農林水産省が担当するという仕組みだ.しかし,食品安全委員会は「リスク」しか検討しないことになっているにもかかわらず*1,摂取許容量などの勧告を求められているところに大きな矛盾が存在する.摂取許容量はリスクだけで決めることができない,あるいは無理に決めようとするとルールを恣意的に運用せざるをえなくなる.具体的には,大豆イソフラボンのリスク評価については以前書いた(link).食品には,低用量では栄養となるが,高用量では毒となる(ホルミシスのような)用量反応関係を持つ物質は多い.
また,食品安全委員会の仕事の1つにリスクコミュニケーションが含まれていることも大きな矛盾だ.食品の持つリスクだけを消費者にコミュニケートしても意味がないし,むしろ有害だ.食品(さらには食生活全体)の持つベネフィットとリスクをバランスよくコミュニケートして初めて,消費者の合理的な判断の材料となる.だから,これは現状の役割分担のもとでは食品安全委員会の仕事とすべきではない.
そんなことを考えていたら,日本よりも1年早く設立され,まったく同じ役割分担で運営されている欧州食品安全機関(European Food Safety Authority: EFSA)が7月に「食品のリスクベネフィット分析:方法とアプローチ」という会議をイタリアで開催することを知った.最初に問題意識が書かれている.

食品(food substances)や栄養素(nutrients)のヒト健康へのリスク評価は通常,ありうる健康ベネフィットとは独立に実施されてきた.さらに,食品,食品の成分,栄養素では,その健康リスクと健康ベネフィットを推計する際に,異なる科学的アプローチが用いられている.食品や成分が潜在的なリスクとベネフィットの両方を持つ場合に,特にその両者のレベルが近い場合に,リスクとベネフィットのバランスがリスク管理目的に応じて受け入れ可能である摂取範囲を決める必要がある.

そのとおり!まったく同じ問題意識だ.(この件は続く)

*1:ただし,食品安全基本法には「リスク」あるいは「リスク評価」という言葉は出てこない.第23条に書いてあるのは「食品健康影響評価」である.