イラク戦争の真のコスト
イラク戦争は予防原則の忠実な実践だと以前から主張していた.有名なウィングスプレッド宣言は「環境や人間の健康に危害をもたらすおそれのある活動に対しては/一部の因果関係が科学的に完全に確立されてなくとも/予防措置が/講じられるべきである」というように4つの次元からなる.これが恐ろしいほどイラク戦争のロジックと重なるのだ.
- 「恐れ」・・・大量破壊兵器を隠し持ち,国際的な脅威となる恐れがある場合には,
- 「不確実性」・・・完全にそうであることが証明されなくても,
- 「対応」・・・先制攻撃が,
- 「命令」・・・実施されるべきである
最近ではアメリカ人の間でもそういう議論が出てきたらしい.
- Stern, J. and Wiener. J. B. (2006). Precaution Against Terrorism, Journal of Risk Research (forthcoming).
「テロリズムに対する予防」という論文がもうすぐ出る.ここではブッシュ政権の国家安全保障をめぐるロジックと,予防外交を支える予防原則のレトリックについて分析しているそうだ.予防原則の怖いところは「イヤなものはイヤ!」を押し通すためのロジックとして用いられる場合だ.だからこそ「予防原則の適用に予防原則を!」という主張が出るのももっともだ.たとえ戦争であっても事前の影響分析(impact assessment)が必要なことはいうまでもない.
- 米軍駐留経費がベトナム戦争並みに、補正予算を米下院可決(Nikkei)
イラク戦争の経費が「約4600億ドルに達し,現在の物価換算で5000−6000億ドルといわれるベトナム戦争の負担に迫る」と書かれている.
- Linda Bilmes, Joseph E. Stiglitz, "Costly conflict: the pricetag on the futile war in Iraq will exceed $1 trillion." Energy 31(1): 9-11.
ブッシュ大統領の経済顧問だったリンゼー氏は当初2000億ドルという見積もりを示した.議会予算局は現在,戦争の直接経費が5000億ドル程度になると推計している.しかし経済学者の著者らは(このあと出る論文に詳細が述べられるそうだが)イラク戦争の真のコストは7000億〜1兆ドルで,これにマクロ経済への影響が加わると主張する.マクロ経済への影響は,原油価格上昇を通したもの,防衛費の増大,戦争に伴い増した不安定さによる.
ほかにもこんな本が出ている.
Alan M. Dershowitz 'Preemption: A Knife That Cuts Both Ways' (Issues of Our Time), W W Norton & Co Inc.