ナノテクの5つの「壮大な挑戦」

Maynard, A. D. et al. Safe handling of nanotechnology. Nature 444: 267-269 (16 November 2006)
Nature誌11/16日号の論文.タイトルは「ナノテクノロジーの安全な扱い」という地味なものだけど,有名人たちの連名で,責任あるナノテクノロジーの発展のために取り組むべき5つの「壮大な挑戦」が提案されている.筆頭著者はウッドロー・ウィルソン国際学術センターのAndrew D. Maynard氏.以下,Robert J. Aitken, Tilman Butz, Vicki Colvin, Ken Donaldson, Günter Oberdörster, Martin A. Philbert, John Ryan, Anthony Seaton, Vicki Stone, Sally S. Tinkle, Lang Tran, Nigel J. Walker and David B. Warheit.

1) 3〜10年以内に,気中およに水中の工業ナノ材料への曝露を評価する手法を開発する.

  • 3年以内に,労働環境中の個人曝露量(数,表面積,質量濃度・・・)を計測する携帯用で安価なエアロゾルサンプラーが商業的に利用可能になる.
  • 5年以内に,水系の工業ナノ材料の排出量,濃度,変化を記録する手法を開発する.
  • 10年以内に,曝露情報と有害性情報の様々な側面を合わせて潜在的な悪影響を示すスマートセンサーが利用可能になる.

2) 5〜15年以内に,工業ナノ材料の有害性を評価する手法を開発し,妥当性が確認される.

  • 2年以内に,ヒトや環境への毒性へのin vitroでのスクリーニング試験セットに関する国際的な合意を得る.
  • 5年以内に,これらの試験の妥当性が確認される(標準ナノ粒子サンプルが利用可能となることが前提).
  • 15年以内に,工業ナノ材料のin vivoでの有害性試験に代わる試験法が開発され,妥当性が確認される(動物愛護と経済的な理由から).
  • 5年以内に,高アスペクト比で生物残留性のナノチューブ,ナノワイヤ,ナノ繊維の潜在的な健康影響が体系的に調査される(繊維の形のナノ材料には特有の毒性があるかもしれないから).

3) 10年以内に,工業用ナノ材料の環境とヒト健康への潜在的影響を予測するモデルを開発する.

  • 環境中へのナノ材料の排出,輸送,変化,蓄積,摂取を予測するモデル.
  • 体内での動態(用量,輸送,排泄,蓄積,変化,反応)を予測するモデル.
  • ナノ材料の設計(望ましい特性を高め,有害影響を抑える)において安全性を予測するモデル.

4) 5年以内に,工業ナノ材料の全ライフサイクルを通した健康および環境への影響を評価するための強固なシステムを開発する.

5) 12ヶ月以内に,(上記のような)リスクに焦点を当てた研究を可能にする戦略的プログラムを作成する.

  • 共同研究プログラム(学際的,政府と産業,など)を可能とするメカニズムを見つける.
  • 科学コミュニティの外にナノテクノロジーのリスクとベネフィットに関する研究成果を伝える.
  • 国際的な情報共有と公的機関と民間の間の協力を可能とするメカニズム,ネットワーク,会議を提案する.