子供を重視すべき理由について

リスク削減において,子供を大人や高齢者よりも重視すべきであるとする主張の根拠として,A)獲得余命最大化,と,B)フェア・イニングズ仮説(ライフサイクル原則)の2つがあった.前者は,最小の費用で最大の効果を得るという効率性を基礎とした倫理原則であり,後者は,人は誰でも人生のすべてのライフステージを生きる権利を持つという公平性を基礎とした倫理原則であった.結果として,どちらの倫理原則に基づいても子供を重視するという結論が導き出されるわけだ.効率性と公平性というまったく異なる原則からまったく同じ結論が導かれることがやや意外だったのだけど,さっきふと異なるインプリケーションがあることに気づいた.それは,例えば,免疫系の疾患を持った子供の場合だ.Aを根拠にすると,じゃあ子供といっても獲得余命年数が少ない人は優先順位が下がるのかという懸念が表明される(実際に,環境政策などで,特定の集団にだけ影響するようなものはあまりないのだが).こうした懸念を払拭するためには根拠Bの方が望ましいことになる.
米国環境保護庁(EPA)では,VSL(統計的生命価値)に代わって,VSLY(統計的余命価値)を使用することの是非が議論になっている.VSLYへの反論の1つとして上記のようなものが根強い.そのためにはBに基づく年齢別のウェイトを導入してはどうだろうか?(EPAの科学諮問委員会の中でVSLについて議論している委員会のサイト:Advisory on EPA's Issues in Valuing Mortality Risk Reduction