エタノールで「カーボン・ネガティブ」の可能性

バイオマスはその成長過程で炭素を吸収するために燃焼しても「カーボン・ニュートラル」だと言われる.でも実際は,エタノールにしても,トウモロコシやサトウキビの生産や精製や運搬などの場面で,化石燃料を使っているので,カーボン・ニュートラルではない.
そういうライフサイクルの観点からの分析もいくつか出てきていて,例えば「温暖化対策“切り札”エタノール 米で効果に「?」」という記事(SankeiWEB)では,ワシントン・ポストに載った論説"Corn Can't Solve Our Problem"(トウモロコシでは問題を解決できない)が引用されている.この論説はDavid Tilman氏の書いたもので,彼はScience誌の2006年12月8日号に,"Carbon-negative biofuels from low-input high-diversity grassland biomass"という論文を書いている.このタイトルに「カーボン・ネガティブ」という言葉が出てくる.いったいどんな意味なのだろうか?
まず,ワシントンポスト紙の論説から読んでいく.トウモロコシから作られたエタノールは,生産等で化石燃料を使用するので,「新」エネルギーとみなせる部分は差し引き20%にしかならない.2006年の全米トウモロコシ作付面積=7000エーカーすべてがエタノール生産に回されたとしても,全ガソリンの12%を代替できるにすぎない.しかも,「新」エネ部分は実質20%だけなので,12%×20%=2.4%,つまり事実上2.4%しかガソリンを代替できないのだ.温暖化ガス排出量は,トウモロコシから生産したエタノールでは,ガソリンに比べて15%減,大豆から生産したバイオディーゼルは,石油ディーゼルに比べて40%減,サトウキビから生産したエタノールは80%減.しかし,この80%という数字は,新規開拓した土地に植えられるサトウキビには当てはまらない.熱帯雨林やサバンナを新たに開墾すると,それだけで温暖化ガスの排出量が増えてしまうからだ.熱帯雨林を開拓して植えたサトウキビから作られたエタノールはガソリンに比べて温暖化ガス排出量はむしろ5割増しになってしまう.
こういった手詰まりに対して,著者らは10年にわたる実験を繰り返し,肥沃でない未使用地(全米で6000万エーカーあり,食物生産を妨げない)に"Low-Input High-Diversity Grasskand Biomass"(LIHD:低投入・高多様性の草地多年生植物)を植えることによって,カーボンがネットでマイナス(=カーボン・ネガティブ)になることを実証した.どういうことかと言うと,生態系に隔離されるCO2の量(土壌や根に年間1ヘクタールあたり4.4トン)が,バイオ燃料の生産・運搬・精製で使われる化石燃料から排出されるCO2量(年間1ヘクタールあたり0.32トン)を上回るということ.差し引きで年間1へクタールあたり4.1トンのカーボン・ネガティブ.ただし,10年間であって,次の10年間では少し減る.
全米で600万エーカーある土地すべてにLIHDを植えると仮定すると,4.1×0.405×600万エーカー=約1億トンのCO2を1年間で削減できる.米国の年間CO2排出量が約60億トンだからこれはけっこうな量だ.