「危機を警鐘する学者」の位置づけは?

自然災害パニック系の映画をDVDで立て続けに3本見た.「日本沈没」(日本2006年),「マグマ」(米国2006年),「ソーラー・ストライク」(米国2006年).危機の原因はそれぞれ,メガリスの崩壊によるプレート沈み込み加速,マグマへの負荷増大による休火山の一斉噴火,太陽からの大量のコロナ質量噴出(CME)とそれぞれなのだけど,ストーリー展開には共通点だらけだ.学問的に異端である学者(や元学者)が,危機を警告しても,学会の権威や上司に否定され,あわや手遅れかというところで,大統領(や首相)の信頼を得て,危機から地球(や日本)を救ってハッピーエンド.危機への警鐘を鳴らす学者がヒーローだ.
そして,たまたま同時期に読んだのが,危機を過大に警鐘する学者やマスメディアを批判する,松永和紀著『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)だ.上の映画と比較するのも変だけど,科学者のあり方という観点から眺めてみるとちょっとおもしろい.例えば,松永氏の本で紹介されている,ロシアのエルマコヴァ博士(第9章参照)は,上記の映画で言うと,危機への警鐘を鳴らす科学者に相当する.でも彼女はデタラメだった.「孤高の研究者が市民団体の支援を受けて真実を告白している.いかにも新聞やテレビ局の好みそうな構図です」(p.207)と書かれている.付け加えると,B級パニック映画が好みそうな構図でもある.
松永氏がここで批判しているのは,(純粋な正義感から,注目を集めたいがために,あるいは,視聴率や部数を稼ぐために)危機を煽る学者やマスメディアだ.環境ホルモンだって,食品添加物だって,同じことが繰り返されている.映画では警鐘を鳴らす主人公に対して,「たいしたことはない」と言い続ける学会の重鎮や上司は悪役として描かれている(「たいしたことない」と主張する学者がヒーローになる映画って,無理だろうなあ).もしかして,危機を煽る学者やマスメディアの中に,こうした(B級)映画のヒーロー像が無意識に刷り込まれてはいないだろうか? 松永氏も指摘するように,「たいしたことがない」と責任を持って主張することは実はたいへんなことなのだ(p.92).