「ウソ」と「逃げ」を回避する仕組み

ソフトバンク新書から出た『学者のウソ:専門家・メディア・科学技術の倫理』の中で掛谷氏は,住基ネット論争,ゆとり教育,ダム論争,理系学者,文系学者という項目でそれぞれの「ウソ」について例証した上で,ウソを生み出さないような学問のあり方や倫理を検討し,最後に,数年前から推進しているプロジェクトである「言論責任保証」と,昨年から始めた「先見力検定」で締める.言論責任保証とは,予測的な話をする場合,あるいは予算獲得のための公約を行う(○○年までに○○を達成する)場合に,預託金を支払い,万が一予測が外れた,あるいは公約が達成できなかった場合,お金が返ってこないという仕組みだ.先見力検定は,近い将来結果が出るような問いから15問選んで回答し,結果が分かった時点でチェックし,正解率に応じて資格が付与されるというもの.
ぼくは『学者のウソ』を読んで,本の中でどうして予測市場(prediction market)について言及していないのか不思議でしようがなかったので,先日会ったときに「予測市場」の利用を提案した.予測市場では,期待値に基づいて取引をしないと損をするので,専門家が正直な見通しを表明するインセンティブを持つ.「ヴァーチャルマネー」の儲けの額がそのまま「先見力」の強さの指標となる.彼は,ウソを防ぐ仕組み,あるいは庶民が騙されない仕組みを作ろうとしている.ぼくの関心は,期待値を知りたいということ.期待値は中央推定値と言い換えてもよい.化学物質のリスク,遺伝子組み換え技術のリスク,ナノ材料のリスクなどは多くの場合,ワーストケースばかりが強調される.これを中西準子氏は「逃げ」と呼び(link),「逃げないリスク評価」を目標に掲げた.
技術予測の中には昔から過剰な期待をもたせ続けるものが多い.英語では"hype"と呼ばれる.ナノテクでもすでにhypeだという指摘もされている.掛谷氏はこういったものを学者の「ウソ」と呼ぶ.逆に現実に追いつかない技術予測も多い.携帯電話なんてそうだろう.予測市場を使えば,過少でもなく,過大でもなく,これらの中央推計値としての予測を知ることができるはずだ.つまり,「ウソ」も「逃げ」も回避することができる.問題は専門家が参加してくれるかどうかだ.