ミクロな積み上げとマクロ経済影響

温暖化対策の経済的側面に関する記述で,例えば「GDPの1%に相当する」と「GDPを1%減らす」というのはまったく異なる概念だけど混同されやすい.IPCCのWG3の報告書では,マクロ経済モデルを用いた計算結果を使っているので,2030年や2050年のベースラインケースのGDPに比べて,対策時のGDPがそこから何%減るか(場合によっては少し増えるか)を推計している.これに対して,ボトムアップで個々の対策費用を積み上げた場合,マクロ経済影響(GDPへの影響)は考慮されないために,積みあがった金額は「GDPの何%に相当する」という表現しかできない(だからTable SPM 1とTable SPM 2の数字が良く似ていることに驚いた.報告書本文を読んだ上でまた考えてみる.)
例えば読売新聞のニュース記事では,「・・・削減コストは2030年の世界の国内総生産GDP)の最大3%に相当すると予測した」(これはボトムアップによる積み上げに聞こえる)と書く一方で,同じ記事中に「・・・世界のGDPは2030年に最大3%,50年に最大5.5%小さくなると予測するなど・・・」(これは明らかにマクロ経済影響だ−これが正しい)と書く.朝日新聞記事では「・・・いずれもGDPの損失は2030年時点で最大3%などど算定した」はまあマクロ経済影響に読める.しかし,産経新聞記事は「・・・2030年に世界の大気中の二酸化炭素(CO2)の濃度を550ppmにするためのコストについては,予想される世界の国内総生産GDP)の約0.6%にあたるとの見解でも合意したとみられる」と,ミクロな積み上げに聞こえる(ちなみに,安定化するのは長期の話で2030年ではない).