IPCC第4次レポートのWG3の政策決定者向けサマリー

IPCC第4次レポートのWG3のサマリーが5月4日に発表された(pdf).おさらいすると,2月に出たのがWG1「自然科学的基礎」,4月に出たのがWG2「影響,適応,脆弱性」,そして今回のがWG3「気候変動の緩和」.第2次レポートはSAR,第3次レポートはTARとくると,第4次レポートはFARかと思いきや,AR4だった.
経済的側面の話は,WG2の中に,炭素の社会的費用(social cost of carbon: SCC)の値が出てくる.これは,気候変動による損害の純経済的費用で,将来の費用−便益の割引現在価値)と定義される.2005年段階のSCCのピアレビューされた推計値は,炭素1トンあたり平均43ドル(範囲は−10〜350ドル),CO2に換算すると1トンあたり平均12米ドル(−3〜95ドル)とされている.計算の詳細は本文を待たなければならないが,定量化できない部分も多いので過小評価であることや,地域によるバラツキが大きいことなども強調されている.
WG3は排出削減対策の話なので当然経済的な話題も多くなる.まずベースラインとして何も対策を行わなければ2030年までに温室効果ガス(GHG)がCO2等価量(GWPによって6ガスをCO2量に換算)で97〜367億トン(25〜90%)の排出増加が見込まれる.ここから削減可能なGHGを「緩和ポテンシャル」と呼び,可能かどうかは「1トン排出削減費用」で評価される.CO2は地球上のどこで排出してもその影響は同じであるので,「1トン排出削減費用」という指標はきわめて有効だ.この「緩和ポテンシャル」は2つに分けられる.

  • 「市場ポテンシャル」は,現行の政策や価格体系のもとで,私的費用と私的割引率に基づいたもの.
  • 「経済ポテンシャル」は,社会的費用,社会的便益,社会的割引率を考慮したものだ.

緩和ポテンシャルはまた2つのアプローチで推計される.

  • ボトムアップ」は,ミクロ経済学的に,部門別の規制や技術ごとの計算を積み上げたもの.
  • トップダウン」は,マクロ経済影響や市場のフィードバックを組み込んだもので,炭素税や政策の影響を分析するのに有用.

この両者の方法で計算された2030年段階の「経済ポテンシャル」がTable SPM 1とTable SPM 2に示されている.これらの数字は断片的に日本の新聞でも引用されていた.ボトムアップ研究からは,現状(つまりCO2等価の価格が1トン0ドルの場合)でも年間50〜70億トン,20ドルの場合は90〜170億トン,50ドルの場合は130〜260億トン,100ドルの場合は160〜310億トンの削減が可能.トップダウン研究からは,20ドルの場合は90〜180億トン,50ドルの場合は140〜230億トン,100ドルの場合は170〜260億トンの削減が可能.両アプローチで計算した数字がお互いとても似ていることにちょっと驚いた.「100ドル」とか「80ドル」がニュースの見出しになっている.
Table SPM 4には2030年段階における世界マクロ経済コストが推計されている.安定時の大気中CO2等価濃度レベルが445〜535ppmではGDPが最大3%減少,535〜590ppmでは0.2〜2.5%減少,590〜710ppmでは0.6%増加〜1.2ppm減少.ここの「GDP3%」もニュースの見出しにもなっていた.なお,Table SPM 6には2050年段階のコストが出ている.
各モデルでの推計によれば,2100年までにCO2等価濃度を550ppmで安定させるためには,2030年までに1トンあたり20〜80ドル,2050年までに30〜155ドルまでの対策が必要.技術革新が促進されるという仮定を組み込むと2030年までに5〜65ドル,2050年までに15〜130ドルに下がる.