OIRA長官に就任したSusan Dudley氏の話

米国OMB(Office of Managemenet & Budget)では,John D. Graham氏が退任したあと,OIRA(Office of Information & Regulatory Affairs)長官はずっと空席だった.それは,昨年7月末にブッシュ大統領から指名を受けて以来ずっと議会の承認が得られなかったからだ.彼女には規制嫌いかつ,原理主義的な費用便益分析主義者として知られており,環境保護派や消費者グループからは相当警戒されている.彼女は20年前にレーガン政権時に,経済学者としてOIRAで働いた経験もある.いつまで経っても議会の承認を得られないので,休会中に任命するという裏技(?)によって「勝手口を通って」就任した.詳しくは,Science誌5月18日号のインタビュー記事(顔写真付き),OMBの中のOIRA長官紹介ページを参照.
相変わらず,RIAの中で健康リスク削減便益をどのように金銭価値化するかが議論になっているのだけど,就任前に,民主党の議員たちが彼女に対して.「QALYsによって便益が推計されている費用便益分析を使った規制影響分析を支持するかどうか」という質問を提出した.環境保護団体や高齢者団体は,QALYsを使った推計は,高齢者を含む健康状態の悪い人のリスク削減便益を低めるものであると批判しており,QLAYsを「高齢者死亡割引き(senior death discount)」と呼ぶことを提唱している.そもそも,以前,65歳以上の人については公式VSLの値を37%割り引くという方法が「高齢者割引(senior discount)」と呼ばれ,強い反対を受けて撤回された経緯がある.ブッシュ政権やOMBはこれに変わって,QALYs概念を出してきたけど,やっぱりその意図は見抜かれてしまい,また同様の批判にさらされている.Dudley氏は先の質問には,「高齢者を差別するような費用便益分析は支持しない.その代わりに,単純な余命測度を提唱する」と回答した.つまり,余命年数(LY)を使うということだけど,結局,高齢者を割引することになるわけで,この回答では余命年数アプローチとQALYsの区別がつかないという批判がさっそく出ている.今後どうなるか?
また,現在,EPAはオゾンの大気環境基準値(NAAQS)の強化を提案している.今年度中には最終ルールが公布されることになっている.Dudley氏に対する懸念の1つは,彼女が前回1997年のオゾンの大気環境基準値の改正時に,基準値強化に強く反対していたことが挙げられている.今年彼女がOIRA長官となったことで,もうすぐ公表されるオゾンのNAAQSの提案ルールに関する規制影響分析(RIA)は彼女のもとでOMB審査を受けることになる.オゾン濃度低減の便益の中には今回初めて死亡リスク削減便益がカウントされる可能性が高い.このあたりもDudley氏がどう出るか楽しみだ.
そうだ,もう1つ,NASレビューにダメ出しされたOMBのリスク評価ガイドライン案もどんな展開になるのだろうか?