NNIによる研究ニーズの優先順位付けの試み

National Nanotechnology Initiative (NNI) が新たに報告書(pdf)を発表,9月17日までコメント募集中(link).タイトルは"Prioritization of Environmental, Health, and Safety Research Needs for Engineered Nanoscale Materials"(工業ナノ材料のための環境・健康・安全研究ニーズの優先順位付け)で中間報告書という位置づけ.
これは名前のとおり,2006年9月にNSET(Nanoscale Science, Engineering, and Technology)小委員会が発表した報告書(pdf)"Environmental, Health, and Safety Research Needs for Engineered Nanoscale Materials"(工業ナノ材料に対する環境・健康・安全研究の必要性)で挙げられた研究ニーズを優先順位付けしたものらしい.
2006年9月の報告書では,ナノ材料に関するリスク評価とリスク管理に関して,5つの研究カテゴリーと75の具体的な研究ニーズが挙げられた.また,必要なEHS研究を特定して,それらの優先順位を付けるための原則も検討された.

  1. 情報の価値に基づいて研究を優先順位付けする(不確実性の大きいところ=得られるデータの価値が高いところから集中的に投資せよ!)
  2. 他国での研究成果や民間部門での研究成果を利用する(研究のダブりがないように情報交換を積極的に!)
  3. ナノ材料のEHS研究に順応的管理を利用する(ナノテクの進歩は早いので研究戦略もそれに合わせて素早くフレキシブルに調整すべし!)

この報告書を受けて,省庁間調整機関であるNanotechnology Environmental and Health Implications (NEHI) Working Groupが,40のパブコメと1月4日に開催されたpublic meetingの結果を受けて検討を継続してきた.まず,3つの優先順位付け原則については,1の情報の価値に関して多くのコメントが寄せられた.優先順位付けプロセスは5つの研究カテゴリごとにタスクフォースを作って進められた.カテゴリ間の調整を経て最終的に25の優先研究ニーズが決定した.

研究カテゴリ:計測および分析方法

  1. 生体(biological matrices),環境,職場においてナノ材料を見つける方法を開発すること
  2. 化学的および物理的な変更がナノ材料の特性にどのような影響を与えるかを理解すること
  3. 粒子サイズ,サイズ分布,形状,構造,表面積の評価を標準化するための方法を開発すること
  4. ナノ材料の化学的および物理的キャラクタリゼーションのための認証標準物質を作成すること
  5. ナノ材料の空間化学的構成,純度,不均質性をキャラクタライズする方法を開発すること

研究カテゴリ:ナノ材料とヒト健康(順位付けなしで並列)

  • ナノ材料への曝露を定量化しキャラクタライズし,生体内におけるナノ材料をキャラクタライズする方法を開発すること
  • ヒトの体内でのナノ材料の吸収と移動を理解すること
  • ナノ材料の特性と呼吸器や消化器あるいは目や皮膚からの摂取の間の関係を確立し,体内負荷量を評価すること
  • ナノ材料と身体の間の相互作用メカニズムを,分子,細胞および組織レベルで解明すること
  • ナノ材料曝露に対するin vivoでのヒトの反応を予測するための適切なin vitroとin vivoの試験/モデルを決定する/開発すること

研究カテゴリ:ナノ材料と環境

  1. 工業ナノ粒子のある種の個体への影響と,影響を計測するための試験スキームの適用可能性を理解すること
  2. 主要な曝露源と曝露経路を特定することを通して環境曝露を理解すること
  3. 非生物的および生態系全体への影響を評価すること
  4. ナノ材料の環境移動に影響を与える要因を特定すること
  5. 様々な環境条件のもとでのナノ材料の変容を理解すること

研究カテゴリ:健康と環境曝露評価

  1. 労働者の曝露をキャラクタライズすること
  2. 工業ナノ材料に曝露する集団と環境を特定すること
  3. 産業プロセスとナノ材料が含まれている産業および消費者製品からの一般人への曝露をキャラクタライズすること
  4. 曝露された人々と環境の健康をキャラクタライズすること
  5. ナノ材料への曝露量を決める労働現場のプロセスと因子を理解すること

研究カテゴリ:リスク管理手法

  1. 最善の労働現場での実践,プロセス,環境曝露対策を作成し,理解すること.
  2. リスク削減のための意思決定を行うための情報を得るために,製品や材料のライフサイクルを調査すること
  3. ナノ材料を物理的あるいは化学的特性に基づいて分類するためのリスクキャラクタリゼーション情報を作成すること
  4. リスク管理を行うために必要なナノ材料の利用と事故の傾向情報を作成すること
  5. 具体的なリスクコミュニケーションのための手法と素材を作成すること

この先,NEHI Working Groupはパブコメを受けたのち,優先順位付けの結果と現在の研究資金動向との間のギャップ分析を実施する予定とのこと.