Dupont社が新製品リリースと同時に「リスク評価ワークシート」を発表!

Dupont(デュポン)社は6月21日に正式発表した"Nano Risk Framework"を実際の製品に適用した「ナノ材料リスク評価ワークシート」を発表した。もともとケーススタディは3種類のナノ材料が対象。1)DuPont™ Light Stabilizer 210(光安定剤)、2) Carbon Nanotubes(カーボンナノチューブ)、3) Nano-Fe0(ナノ酸化鉄)。
今回発表されたのは、1)DuPont™ Light Stabilizer 210(光安定剤)のリスク評価ワークシート。この製品は、プラスティックの表面をコーティングして、紫外線による劣化を防ぐ目的で開発され、二酸化チタンのナノ粒子が主成分。このたび、Dupont社は、製品の発売をアナウンスすると同時に、製品のリスク評価ワークシートも発表した。まさに、製品の開発と並行してリスク評価を行うという、将来はもう当たり前のことになっているかもしれない作業を、ナノ材料について世界で初めて実践したことになる。リアルタイムリスク評価と呼んでもいいだろう。

Step 1:Describe Material and Its Applications

ナノ材料である二酸化チタンとその応用製品である光安定剤(二酸化チタンを70〜95%含んでいる)の特徴について述べる。製品の想定される用途についても列挙する。

Step 2:Profile Lifecycles

製品のライフサイクルのプロファイルを作る。原料の生産から製品の廃棄・リサイクルまで。

Step 2A:Develop Lifecycle Properties Profile

製品とポリマーマトリクスに組み込まれた場合の物理化学的性状を記述する。項目は、化学組成、結晶相/分子構造、物理的形状/形態、サイズ分布、1gあたりの表面積、粒子の密度、溶解性、バルク密度、凝集状態、光化学反応性、表面荷電(ゼータ電位)、多孔性、pH。

Step 2B:Develop Lifecycle Hazard Profile

  • ヒト健康ハザード:Dupont社のHaskell Laboratoryの研究者であるWarheit氏の研究(Toxicology Letters 171: 99-110)に詳細が載っている。特に、急性吸入毒性については、同じWarheit氏のラット実験(Toxicology 230: 90-104)による。その結果、急性毒性については、吸入(NOAEL=5mg/kg)、経口(NOEL>5000mg/kg)となり、毒性は低いと判断された。また、皮膚への刺激性や感作性はなく、皮膚透過性については有効な計測法がないものの対策が施されているとした。また、原核細胞の遺伝子変異と染色体異常は陰性。現段階で慢性毒性試験は必要ないと判断している。
  • 生態ハザード:水生生物への急性毒性試験の結果、魚(ニジマス)と無脊椎動物(ミジンコ)については"low hazard"、水生植物(緑藻)については"medium concern"となった。土壌については排出がほとんどないと判断された。
  • 環境中運命データ:物理化学的性状に基づく環境中運命、適用される曝露媒体中での凝集・分解、残留性ポテンシャル、生物蓄積ポテンシャルが検討された。
  • 安全ハザードデータ:燃焼性、爆発性、不適合性、反応性、腐食性

Step 2C:Develop Lifecycle Exposure Profile

ワークシートの中で一番詳しい部分。まず、ヒトが直接接触するケースについては、粒子製造から廃棄・リサイクルに至るまで個人保護装置(PPE)、工学的対策、曝露ポテンシャルについて詳細に記述されている。次に、環境中への放出ケース。これらの情報をもとに、曝露評価が行われる。曝露評価は、労働曝露、コミュニティ曝露、環境曝露(水生生物)の3通り実施される。

  • 労働曝露:空気中濃度のモニタリングデータで、ほとんどのケースにおいて検出限界である0.3mg/㎥を超えなかった。
  • コミュニティ曝露:工場のバグハウス処理を通して煙突から出る排気からの近隣住民の曝露は、ワーストケースの気象データを用いたスクリーニングレベル大気拡散モデルを用いて推計され、敷地境界付近で0.2μg/㎥とした。また、排水先の河川中の濃度は20μg/L(20ppb)と推計された。
  • 環境曝露(水生生物):ワーストケースとして上の濃度を用いる。

Step 3:Evaluate Risks

  • 労働曝露:Acceptable Exposure Limit(AEL)を2mg/㎥と設定した。この根拠はおそらく、急性吸入毒性のNOAELである5mg/kgを不確実性係数10で割って、1日の呼吸量20㎥で割って、体重70kgを掛けたものだと予想される。AELは曝露評価で示された0.3mg/㎥を大きく上回る。
  • コミュニティ曝露:AELの2mg/㎥(週5日8時間)を一般環境の設定(週7日24時間)に変換するために4.2で割り、さらに感受性の高い人に配慮するために不確実性係数10で割って求めた0.048mg/㎥(=48μg/㎥)は、安全側の仮定でモデルで予測された0.2μg/㎥よりもずっと大きい。河川水をそのまま飲むというありそうもないシナリオのもとで推計した1日経口摂取量である5.7×10^-4mg/kg/day。おそらく、20μg/Lの濃度の水を体重70kgの人が1日2L飲むという計算。NOELを5000mg/kgとすると、この場合のMOE(Margin of Exposure)は800万になり、通常の100〜1000を大きく上回る。
  • 生態リスク:最も感受性の高い緑藻のNOECである10mg/Lは、排水前の濃度の計算値である3mg/Lよりも大きいし、河川中での濃度である20μg/Lと比べると200倍以上になる。

この結果、ライフサイクルの各段階で、すべての対象に対して、潜在的なリスクは"low"か"not applilcable"であることが分かった。

Step 4:Assess Risk Management

各ライフサイクルで大きなリスクはないと結論されたが、ナノ材料の製造者、ナノ材料のユーザー、最終製品のユーザー向けに、リスク管理対策の一覧表を作成。

Step 5:Decide, Document and Act

部門横断的なレビューチームを作り、当ワークシートをレビュー。

Step 6:Review and Adapt

今後4年ごとに見直しを行う予定とのこと。


また、2)についても8月末、「ポリマーナノコンポジットへの単層および多層カーボンナノチューブの溶融加工による混入(Incorporation of Single and Multi Walled Carbon Nano Tubes (CNTs) into Polymer Nanocomposites by Melt Processing)」というリスク評価ワークシートが発表されたが、まだ開発中ということで、特に有害性ベースセットについては不完全な内容だった。