Andrew Maynard氏のブログ追っかけ

恒例のMaynardさんのBlogのキャッチアップ。どうしてMaynard氏を追っかけるのかというとこの分野において非常にユニークな存在だから。エアロゾル計測の専門家でもあり、ナノ材料のリスク評価・管理の全体が分かる数少ない専門家でもあり、サイエンス・コミュニケーションを積極的に進め、世界中の重要な会議で多数の講演をこなす。時には子供向けの教育映像も作ってしまうし、YouTudeにもチャンネルを作ってしまう。

1月18日 労働環境における安全ガイド〜BSI文書はお勧め!(意訳)

BSI(英国規格協会)は9つのナノテク関係文書を公表していくそうだ。そのうちの1つがこれ、「ナノテクノロジーPart 2: 工業ナノ材料の安全な取扱いと処理のためのガイド」(ここからダウンロード可能)。役に立つかって?ひとことで回答すれべ、もしあなたが工業ナノ材料を開発したり、生産したり、取り扱ったり、その他何らかの形で関わっているならば・・・このガイドを読め!
以下は、ちょっと長めの回答。2004年の後半、まだNIOSHで働いていた頃、ナノテクの労働安全衛生についての64項目にわたるFAQの草案を作ったんだけど陽の目を見なかった。当時、そういう文書に「リスク」なんて言葉を使うことは扇動的すぎると思われたことも理由の1つだった。その後、「安全なナノテクノロジー:NIOSHとの情報交換」(2005)という文書として公表された(2006年更新版では61ヶ所に「リスク」という言葉が使われている!)。
同様なガイドでは、例えば、ASTM Internationalによる「労働環境におけるフリーな工業ナノスケール粒子の取扱い標準ガイド」や、米国エネルギー省の「ナノスケール科学研究センターのナノ材料ES&Hへのアプローチ」(2007年6月改訂)があるけど、やっぱり予防的アプローチが採用されている。
BSI文書は、リスク評価のためにナノ材料を4つに分けている(p.9)。そしてBSIはそれぞれに労働曝露基準濃度を提案している(p.14)。

  1. 繊維状(Fibrous):アスペクト比が高くて不溶性のナノ材料→0.01 fibres/ml
  2. CMAR:大きい粒子ですでに発がん性(C)、変異原性(M)、ぜんそく発症性(A)、生殖毒性(R)を持つナノ材料→0.1×既存材料のWEL(労働曝露限界濃度)
  3. 不溶性(Insoluable):繊維状でもCMARでもない、不溶性あるいは難溶性のナノ材料→0.066×既存材料のWEL(労働曝露限界濃度)(←NIOSHがナノスケールの二酸化チタンの有害性評価草稿で採用した比率が援用)
  4. 溶解性(Soluable):繊維状でもCMARでもないナノ材料→0.5×既存材料のWEL(労働曝露限界濃度)

まあ要するに、BSIガイドはもちろんパーフェクトではないけれど、全体としてはこれまで読んだ中で最も直接的で簡潔で有益な文書だ。

1月25日 立方体を分割していくと、粒子数や表面積はどうなる?(意訳)

ナノ粒子の有害性では、個数濃度や表面積が大事だとよく言われる。粒子を分割していくと、粒子数や表面積がどうなるか、一目見て分かるように、YouTube映像をアップした。4等分ずつ4回分割されると、個数は8の4乗=4096個になるけど、体積(重さ)は変わらない(表面積は2倍ずつになり、最終的には2の4乗=32倍になる)。

1月26日 合成生物学はナノテクをめぐる正しい問いとは?(意訳)

話題は、クレイグ・ヴェンター氏のチームが、細菌(マイコプラズマ・ジェニタリウム)のゲノムを人工的に合成することに成功した論文はScience誌に発表された。この「合成生物学」はナノテクノロジーだろうか?ということに、最初は懐疑的だったけど、この分野の研究者たちと話をしてみて最初の印象は変わりつつある。というよりも、本当に大事な問いは、ナノテクかどうかってことよりも、われわれは合成生物学がもたらす未来に対して準備ができているのだろうか?だ。そう希望するんだけどね。