Andrew Maynard氏のブログ追っかけ(もうちょっと続く)

5月17日はデカップリングの話

カップリング(decoupling)はこれからナノテクのガバナンスを考える上でとても重要になってくる概念だ。社会に対して売り込んでいく際には「ナノテクノロジー」という括りは有効だった。ブログではこれを"grand idea"と言っている。現に日本では新規技術としての知名度は他の先進国に比べて圧倒的だ。つまりマーケティングは大成功した。でも、逆に成功したからこそ、ある1つの製品や企業で発生したネガティブなイメージもすぐに全体に波及してしまうというリスクを背負いこんでしまった。
だから、ナノテクといっても多様で、リスクとベネフィットは物質ごと、あるいは、製品ごとに検討しなくちゃいけないということをそろそろ強調しないといけない。つまり、デカップリングするための方法論を早急に考えなくちゃいけない。ブログに書かれているように、"the sooner, the better"だ。それは無関係な製品からの風評リスクを回避することにつながる。でも、これは相当困難な仕事になる。遺伝子組換え技術でも同じことが言われているようだ。まずは、どうやって分類するかという話が出てくるだろう。次に考えなくちゃならないのは、ベネフィットを語るときもリスクを語るときも「ナノテクノロジーは」という包括的な表現をできるだけ減らしていくことだ。とりあえず「ナノテクノロジーは安全か?」みたいなざっくりした問いの立て方をやめることから始めようかな。ナノテクといっても多様だよということを体現するためには、英語表現では"nanotechnologies"という複数表現を使うというやり方があるけど、日本語のカタカナで「ナノテクノロジーズ」と表記するのはあまり見かけない。

5月21日はDonaldsonチームのレターの話

ナノ関係者を動揺させたPoland et al.レターはこの前日にNature Nanotechnology誌にオンラインで発表された。ここでもすぐに取り上げた。この論文のポイントは、これまではサイズが小さくなることの影響をみんな血眼になって探していたところに、長くなるほど影響が大きいかもというもう1つの「サイズ効果」の可能性を示した点。ブログで何度もでてくるのが「もし安全と健康の懸念に完全に対応しているという確証が得られなけれな」「われわれが今すぐに行動しなければ」というフレーズだ。でも1番おもしろいのが、ブログのコメント欄でのやりとりだ。ドイツの人から「何度も"first"だって言っててその気持ちは分かるけど、Takagi et al.論文は知ってるか?(意訳)」と指摘され、次のように回答している。キーワードは"fibre paradigm"だ。研究グループのリーダーであるDonaldson氏も何度もこれに言及している。

この研究はマウスの腹腔内で中皮腫の発生を観察したけど、カーボンナノチューブとの関連で、「繊維パラダイム(fibre paradigm)」を明示的にテストしたわけではない。つまり、アスベストに似た効果を示すには異物は長くて細くて真っすぐである(そして耐久性がある)必要がある。この観点から見ると、Poland et al.が最初であると言うことは公平だと思う。でももちろん、カーボンナノチューブを安全に利用するための方法を明確に理解するには、多数の研究グループにとっては徹底的に追及すべき数多くの仕事がまだ残っている。