続報その2:ナノ粒子への曝露によって労働者が死亡したとする論文

Maynard氏のブログに引用されている有識者6名の見解を(かなり適当に)まとめてみた。詳しくはご自分でチェックしてください。いずれもナノトキシコロジーの有名どころばかり!

Professor Anthony Seaton MD

多数の欠陥のある研究である。特に肺の中と労働環境中の粒子の化学的性質についての情報が得られていないこと。このような事故はガスではよく起きたが、今回のケースでガスと粒子がそれぞれどの程度寄与したかについて分からないが、個人的見解は粒子が重要な要因であったと考える。すなわち、プラスチックの加熱によりフューム(fume)が生じ、有機化学物質が粒子中に含まれ、温度やプラスチックの組成によってはそれらは肺に非常に有害となる。不溶性であれば肺や他の組織中に残留し反応が生じる。この論文のエピソードの教訓は、フュームやダストはしばしば有害であり、それを忘れるとこのような悲劇が起こりうるということ。

Professor Günter Oberdörster

極端にまずい労働衛生状態によるものでナノ粒子のせいにするのは科学的に正当化できない。以前から労働曝露によるハザードとして認識されてきた熱分解物質によるフュームへの曝露の疑いがある。著者らが「ナノ材料関連疾患」の予防についてさらなる研究が必要だと書いているがとんでもない! 研究なんていらない、ただすでに確立されている適切な産業衛生上の対策を実施すればよいだけだ。塗料の噴霧作業での事故はこれまでにも起こっており、ナノであるかないかに関わらず、予防的保護対策が必要だという強いメッセージを発している。

Professor Ken Donaldson

不可解なケースだ。アスベストでさえ胸膜に到達するのに10年以上かかった。フライパンの過熱により発生した有害性が強いテフロン粒子に曝露した例がかろうじて近いかも。どっちにしてもあまりに特殊なケースなのでナノ粒子のハザード一般についてほとんど言えることはない。これまではナノ粒子にあまり注意が払われなかったので見つからなかったけど、今は逆に何でもナノ粒子に結びつけられがち。曝露評価とナノ粒子の毒性学的反応性についての情報がないままで出版されるべきでなかった。

Professor Vicki Stone

この結論は信じがたい。普通は曝露した化学物質のカクテルについての分析が十分でないならばそこからあえて結論を出そうとはしない。それなのに著者らはお構いなしに結論へ飛んでしまった。生体内にナノ粒子があったというだけで、労働環境のナノ粒子と結び付けているが、ヒトは常に多様な発生源からのナノ粒子に曝露している。それゆえこの論文がナノ粒子のハザードを証明しているとは言い難い。ナノ粒子の扱いには慎重であるべきだという点を確認させてくれたという価値はあるけどね。

Dr. Rob Aitken

この事件は、基礎的な産業衛生対策がとられないとどのような悲劇的な事象が起きるかを例示している。一番の疑問は「何に曝露したの?」というものだ。曝露したとされるナノ粒子の内容についても量や濃度についても情報がない。当該ナノ粒子が健康影響を引き起こしたことは全く証明されていない。この点だけからしてもこの論文は科学コミュニティからすぐに却下されるだろう。マジックナノ騒動を思い出す。ただし今回は実際にナノ粒子が含まれていたらしいけどね。

Dr. Kristen Kulinowski

臨床学的に詳細であることには好印象を受けたが、粒子そのものについての分析が足りない。粒子はペーストに含まれていたものか、それとも噴霧や乾燥の過程において二次生成したものか?でもそれらが分かったところで、この事件から新たな教訓が得られるのか。この事件の教訓はナノ粒子が原因かどうかよりも、そもそも、換気システムや個人用保護具といった通常の産業衛生対策が取られていれば防げたということだろう。これくらい簡単にできる。