オバマ政権の新しい化学物質管理原則を発表

米国EPAのLisa Jackson長官は、29日のスピーチの中で、オバマ政権の化学物質管理の哲学を表した「化学物質管理法制の改革のための基本原則」を発表した。これは具体的には1976年に制定されたTSCA(Toxic Substances Control Act)の改革の方向性を意味する。前政権で推進してきたChAMP(Chemical Assessment and Management Program)オバマ政権の意向で6月からストップし(今見るとウェブサイトには「この情報はもう更新しないけど、有益だから残してあるよ」と書かれている)ChAMPからの撤退をも意味している。前政権では「TSCAはうまく機能してる」と主張し続けてきたけど、政権が変わると「TSCAはうまく機能していない」に変わった。日本でも今起こりつつあるけど政権交代っていうのはこういうことだ。EDFのRichard Denison氏の指摘で気づいたのだけど、これは「EPAの原則」ではなく「オバマ政権の原則」なのだ。いつも辛口のDenison氏も「EPAの新しいリーダーシップとしては悪くないスタートだ」とコメントしている。米国EPAは同時に、化学物質管理プログラムのページも新しく作成した。「新たな新規に向けたリスク管理アクション」という項目には、鉛、水銀、ホルムアルデヒド、PCB、グリム(1,2-ジメトキシエタン)、そしてナノマテリアルが挙がっている。
Jackson長官のスピーチの中で、1976年以来EPAが規制できた既存物質はアスベストなどたったの5つだったことが挙げられている。これはEPAの側が「不合理なリスクを課している」ということを証明する責任があるからだ。次に懸念すべき影響として、ホルモン系への影響、生殖影響、知能や認知機能への影響が挙げられ、具体的にはビスフェノールAフタル酸エステル、鉛、ダイオキシンの名前が出てくる。そして6つの原則は以下のとおり。

  1. 原則1:化学物質は、まっとうな科学に基づき、ヒト健康と環境を守ってくれるリスクベースの考え方を反映した安全基準値に照らして審査されるべきである。
  2. 原則2:製造業者は、新規および既存の化学物質が安全でヒト健康と環境に危害を与えないと結論するために必要な情報をEPAに提供すべきである。
  3. 原則3:リスク管理意思決定は、感受性の高いヒト集団、費用、代替品の利用可能性、その他の関連する検討事項をも考慮に入れるべきである。
  4. 原則4:製造業者とEPAは、既存および新規の優先的取組化学物質をタイミング良く、評価・管理すべきである。
  5. 原則5:グリーンケミストリーが奨励されるべきである。情報の透明性と情報へのパブリックアクセスを確保するための仕組みが強化されるべきである。
  6. 原則6:EPAは、実施にあたり、持続的な資金源を与えられるべきである。

第一原則では、科学的リスク評価に基づくべきと明言。ただし、Jackson長官のスピーチでは、「費用など他の事項は考慮せず、リスクのみで安全基準値を決める」ことが強調されている。第二原則では、挙証責任の転換を提言。第三原則は、Jackson長官のスピーチでは子供への影響の配慮のみが強調されているが、文書では高感受性集団と費用の両方が挙げられている(従来だったら、民主党政権は前者のみ、共和党政権は後者のみを強調していた)。第四原則では、時間と手間のかかりすぎる現状の反省から、優先順位付けと迅速性を強調。第五原則は2つの話からなっている。後者について、企業秘密(CBI)は尊重されるべきとする反面、健康安全データは原則CBIとはしないとする。第六原則では、製造業者にも一定の負担を求めることが記されている。こうして見ると、欧州のREACHをかなり意識したものになっているように見える。日本の化審法の改革ももう一段必要になってくるかもしれない。