「21世紀における毒性試験:ビジョンと戦略」報告書

現在の毒性試験の体系は生物学やバイオテクノロジーなどの科学の進展を適宜取り入れて発展してきたんだけど、リスク評価&管理の全体に照らして適切かどうかという評価はやってこなかった。そろそろ一度全体を見直さなくちゃ、ということで、米国環境保護庁(EPA)は、2004年、National Research Council (NRC)に毒性試験方法のレビューと長期ビジョンと戦略の提案を依頼した。NRCは、様々な専門分野からなる「環境化学物質の毒性試験と評価に関する委員会」を組織、2006年に中間報告書、2007年に最終報告書をリリース。
21世紀の毒性試験のキーワードは「毒性経路(toxicity pathway)」。毒性経路とは、十分に撹乱された場合に健康悪影響を引き起こす細胞応答経路のこと。毒性経路の撹乱をエンドポイントとした毒性評価を、計算アプローチとヒト由来細胞を使ったin vitro試験を中心に、これらを補完することを目的とした限定的なin vivo試験によって支援するという形で達成することを目指す。ただし欧州のアプローチの主な目標が「動物での高用量試験の結果を予測できるin vitro試験体系の開発」であるのに対して、本ビジョンは、ヒト由来細胞を利用することで、ヒトが曝露している低濃度での影響を「毒性経路の撹乱」として見出すことを目指す。
毒性評価の手順は次の通り。まず対象物質と、それらの代謝物を明らかにし、それらの毒性経路を解明し、またin vitro試験での用量を測定する。これらから毒性経路撹乱をエンドポイントとした用量反応関係が得られる。これをPBPKモデル等を使い、in vitroでの用量をヒト曝露量の換算するとともに、実測あるいは予測された実際のヒト曝露データと比較し、リスクを評価する。