「ナノ粒子が細胞壁を越えてDNAを損傷しうる」

Nature Nanotechnology誌のオンライン版にまた注目論文が掲載された。タイトルは「ナノ粒子が細胞壁を越えてDNAを損傷しうる」で、著者は英国の研究者たち。"can"が微妙な感じの煽り系のタイトルだ。内容は「新規なメカニズムで」と言ってるだけあってなかなか難しいが、ヒトがん細胞についてのかなり特殊な実験であることに注意すべき。アブストラクトの仮訳は以下のとおり。

医療におけるナノ粒子の利用が増え、それらが体の中の特権部位(privileged site)へのアクセスが可能であることが懸念されている。本研究では、コバルト-クロムナノ粒子(直径29.5±6.3nm)が、細胞壁を通過することなく、損傷を受けていない細胞壁を越えてヒト線維芽細胞を損傷しうることを示した。損傷は、コネキシンギャップジャンクションあるいはヘミチャネルおよびパネキシンチャネルを通した、細胞壁内の(ATPなどの)プリン核のtransmissionや細胞間シグナル伝達を含む新しいメカニズムによってもたらされる。著しい細胞死なしでのDNA損傷を含む今回の結果は、ナノ粒子の直接的な曝露を受けた細胞に観察されるものとは異なる。我々の結果は、ナノ粒子の安全性を評価する際の、間接的な影響の重要性を示唆している。病的状態を標的にしてナノ粒子を利用する場合には、細胞壁の向こう側に位置する組織への潜在的な影響が考慮される必要がある。

※ギャップジャンクション(GJ):隣接する2つの細胞をつなぐ連絡通路
※コネキシン(Cx):GJを構成する基本分子(たんばく質)
※ヘミチャネル:Cxが6分子集まるとコネクソンと呼ばれるヘミチャネルになる。ヘミチャネル2個が合体してGJとなる。


内容について、専門家からはさっそく批判が出ている(Science記事NewScientist記事).ロチェスター大学のOberdorster氏はヒト曝露に関係がないことから「無意味な研究だ」、カリフォルニア大学のNel氏も「この結果がヒトに当てはまる証拠はなにもない」と酷評。PENのMaynard氏も、ヒトが体内で曝露する濃度の数千倍の濃度で細胞に曝露させていることを指摘し、またイオンでもミクロンサイズでも同じ結果が出ることから「当該影響はナノ粒子特有のものではない」と言っている。