途上国と先進国の確率的生命の価値

Disease Control Priorities Project (DCPP)が3部作を発表した.ものすごい分量だけど,PDF版は無料でダウンロードできるし,本として購入することもできる.34カ国から346人が執筆し,ビル・ゲイツも資金を提供している.

第1冊:途上国における疾病対策の優先順位(第2版)(Disease Control Priorities in Developing Countries (2nd Edition))(1,400ページ)
第2冊:健康における優先順位(Priorities in Health)(250ページ)
第3冊:世界の疾病負担とリスク因子(Global Burden of Disease and Risk Factors)(500ページ)

特徴は徹底的に費用対効果に着目している点だ.費用効果分析は,一定の予算で最大の余命年数を獲得したいという当たり前すぎるような考え方なのに,特に日本ではあまり気にされない.効率的重視は冷徹な思想だと思われがちだが,こんなに人道的な思想はないのだ.だって,1年余命を獲得するための費用が安い対策から順番に実施すれば,他のどんなやり方よりも最もたくさんの余命を獲得できるのだから!
先進国では1年余命を延ばすために数百万円かけられている一方で,途上国なら,道路上のバンプ(スピード抑制のため)なら5ドル,回虫除去なら3ドル,はしかの予防接種なら4ドルで1年余命が獲得できるのだ.

そして第3冊目の「世界の疾病負担」も重要文献だ.1996年に出た初版は,途上国を含めた世界中の国や地域の死亡と疾病影響を,障害調整生存年数(DALYs)という共通のものさしで定量化した画期的な調査だった.