全米科学アカデミー(NAS)によるダイオキシン類のリスク評価

National Academies Pressから“Health Risks from Dioxin and Related Compounds: Evaluation of the EPA Reassessment”が刊行された.ウェブ上では1ページずつ読める.EPAが作成した2003年のリスク評価書ドラフトがなかなか前進しないために,2004年10月にNASによるレビューに回された.本書はその結果.ポイントは,EPAが安全側の仮定を断定的に使っていることに対して,不確実性の幅をきちんと考慮してありうる値の幅を出せと提言しているようだ.例えば,低用量外挿に線形モデルのみを使うEPAに対して,線形モデルだけでなく,非線形モデルも使った結果を示すべきだと言っているらしい.2003年のEPAのリスク評価書ドラフトが発表されたあとで出たNTPの動物実験データはダイオキシンが直接DNAを傷つけるわけではないという十分な証拠を示しており,低用量での非線形モデルを使用する根拠になるとしている.また,低用量外挿の出発点となる,PoD(point of departure)としてEPAが1%影響用量(ED01)を採用しているが,通常のED05も含めて複数のPoDを用いて感度解析すべきだとしている.
この報告書に対する反応は様々で,環境団体は,NASダイオキシン類を少なくとも”likely human carcinogen”であるとしたこと(ただし,これは"human carcinogen"であると断定できないということ)を好意的にとらえているのに対して,不確実性の大きさが強調されたことで従来考えられていたよりもリスクは小さいことが分かったと解釈する人たちもいるようだ.