「ナノテクノロジー:リスクに対処するための研究戦略」の7つの提言

Woodrow Wilson International Center for ScholarsのProject on Emerging Nanotechnologies (PEN)からまた重要な報告書"NANOTECHNOLOGY: A Research Strategy for Addressing Risk"が出た.著者はAndrew D. Maynard.現在のNNIのもとでのリスク評価は付録のようなものでダメだとバッサリ切る.NNIは2005年にリスク評価関連のR&Dに3,850万ドルを使ったと主張するが,PENの推計では3,000万ドルちょっと,さらにリスク評価に直接関係する予算だけに絞ると1,000万ドルちょっとになってしまう.これを最低5,000万(2年で1億)ドルにせよと主張する.また,現在は戦略的でないため,研究対象のナノ材料がカーボン系に偏っていたり,対象エンドポイントが肺に偏っており胃腸を対象にした研究が皆無である点などが指摘されている.こうした上で最後に7つの提言を行っている.以下は,その7つの提言を含むExecutive Summaryを全訳してみた.

ナノテクノロジーの発展は,健康・安全・環境への潜在的なリスクを理解し,管理するための適切な研究抜きには成功しないだろう.現行の研究では,大きな知識ギャップが,ナノテクのリスク評価のすべての分野において存在している.
これらのギャップは,対象を絞った戦略的な研究を通してのみ埋めることができる.この報告書はナノテクノロジーのリスク研究の現状と,技術の安全な発展と商業化を確かなものとするためになされる必要がある研究について述べている.戦略的な研究フレームワークは,重要な短期目標だと著者が考えるものを確認し,優先順位をつけることで開発される.どのようにして実行可能な戦略的研究計画が実施されるべきかについて次のような提言を行っている.

  • 連邦政府内のリスク研究の責任の所在を変更する必要がある.

報告書の最初の結論は,連邦政府は,戦略的なリスクに基づく研究のトップダウンで権限のある監督を担う必要があり,ナノテクノロジーのリスク研究は監督と環境・健康・安全問題の研究を行う明確な権限のある連邦機関によって実施されるべきであるということである.

  • 関連が深いリスク研究に十分な資金が供給されるべきである.

リスク研究をリードするのに適した機関−EPA,NIOSH,NIH,NIST−は,もし重要な知識が得られるならば,関連が深く,対象を絞ったリスクに基づく研究に,2年間で最低1億ドルの予算を要求するだろう.われわれのリスクの理解に情報を与える可能性のある基礎研究や応用に的を絞った研究への補完的および確認可能な投資によって支えられるべきである.この補完的な研究を利用できるためのメカニズムを作るべきである.

  • 短期的研究の優先順位

今後2年間は,ナノテクノロジーのリスク研究は,すでに使用されている,あるいは商業化間近な技術の安全性を確保することに焦点を置くべきである.優先順位の高いものには,ナノ材料への曝露を確認して計測すること,ナノ材料の毒性を評価すること,工業ナノ材料の放出と曝露を制御すること,および労働現場でナノ材料を安全に扱うための「ベスト・プラクティス」を作成することである.予測毒性学(predictive toxicology)といった長期的問題への研究投資も十分なされるべきである.

  • 政府と産業界が共同で資金を出して研究するためメカニズムが必要である.

政府の研究資金は,戦略的リスク研究フレームワークの中で,産業界の資金と共同で研究を実施することにより強化される.ナノ材料のリスクに対処するためのモデルとしては健康影響研究所(Health Effect Institute: HEI)が考えられる.HEIは政府と産業界が資金を出し合って設立され,浮遊粒子状物質汚染にうまく対処できた.

  • 国際的協調が重要である.

国家あるいは地域の間で,研究活動を協調させ,費用をシェアし,情報を交換するための手段を探るべきだ.

  • 新規の省庁間監督グループが必要である.

十分に資金を付けた戦略的研究計画の作成と監督のためには,新しい省庁間グループを設立する必要がある.このグループは戦略研究アジェンダを作成し,実施する権限を持ち,省庁に適切な資源が与えられていることを確認すべきである.

  • 長期的研究のニーズと戦略は段階的に評価されるべきだ.

最後に,独立した調査を行うことで,将来の研究ニーズを明らかにし,それらをどのようにして戦略的研究フレームワークに組み入れるかをアドバイスし,戦略的研究目標の達成に向けた進捗状況を評価すべきである.