死因と原因

リスクを数字で表すときにいつも気になっているのだけど,交通事故っていうのは原因であって死因でない.この言葉遣いは標準的じゃないかもしれないけど,こう言わないとうまく表せない.死因は全身打撲とか出血多量だ.肺がんは死因だけど,原因はタバコかもしれないし,ディーゼル排気かもしれない.遺伝的に肺がんになりやすいというのも他の環境要因とともに原因を形成する.人口動態統計だって,肺がんと交通事故を並列して並べている.交通事故っていうのはたまたま原因が直接的で分かりやすかっただけだ.交通事故に並ぶべきはタバコであって肺がんではない.自殺も原因で死因は窒息だったり出血多量だったり一酸化炭素中毒だったりする.
言い換えるとこうなる.遺伝的要因と環境的要因の組み合わせが原因となって,なんらかの死を引き起こすダメージを(急性的にか慢性的にか)与え,死に至る.そのダメージが死因であって,それを引き起こすきっかけになったものが原因だ.
東嶋和子氏が以前ブルーバックスで『死因事典』というおもしろい本を書いたけど,やっぱり死因と原因が混ざっていた.そうすると,純粋に死因だけで,死因辞典を作れないだろうか.逆に,原因だけで原因辞典を作れないだろうか.例えば,がんについてはその原因を円グラフで表す試みはDoll and Petoが1981年に発表して以来数々行われてる.1996年にハーバード大学の推計例へリンク.近年では遺伝学や双子研究の発達により,疾病の遺伝的要因と環境的要因の割合が推計されることも多い.