エチレンオキシドとADAF

エチレンオキシド(ethylene oxide)のリスク評価に関してEPAと産業界でもめているらしい。EPAが2006年9月22日に発表した発がん性評価の草稿("Evaluation of the Carcinogenicity of Ethylene Oxide")では、年齢依存調整係数(age dependent adjustments factors: ADAFs)(「変異原性」係数)が初めて適用されている。これはもともと2005年に出たEPA新しい発がんリスク評価ガイドライン(に付いていた「発がん性物質への幼少期曝露の感受性評価のための補完的ガイドライン」)の中で勧告されたもので、変異原性のmode of actionが確認され、かつ、化学物質特有の情報がない場合のデフォルト値として、幼少期や子供への影響が大きいことを考慮して、2歳までの曝露に対して10倍のADAF、2歳から16歳未満が3倍、16際以上は調整なしとするものである(p.33)。生涯を70年とすると、変異原性物質への生涯曝露では約1.6倍のADAFがかかることになる。
エチレンオキシドでは、ヒト疫学調査から得られた男性のリンパ造血系の発がんリスクのユニットリスク値である1.64 per ppm (9.0×10^-4 per μg/m3)(女性については過大評価だとされている)が用いられている(Draft p.56〜58)。これは動物実験の結果よりも10倍程度大きい値であるが、ヒトと動物の両方のデータがある場合はヒトデータを優先するという方針のもとヒト疫学データ(女性の乳がんリスクよりもユニットリスクが大きかった男性のリンパ造血系発がんリスク)が採用された。。さらにこれにADAFsが適用され、1.64/ppm×((10×2年/70年)+(3×14年/70年)+(1×54年/70年)=2.72/ppm(1.5×10^-3 (μg/m3))、となった。このユニットリスク値を使うと、10^-6レベルの濃度は0.0004ppb、10^-5レベルでも0.004ppbとなる。 1985年にできた現行の吸入曝露基準値である3.6ppbと比べると、とにかく大幅な規制強化となる可能性が高い。