ルワンダ大虐殺と精神的無感覚

"Hotel Rwanda"(邦題:ホテル・ルワンダ)に続いて,"Shooting Dogs"(邦題:ルワンダの涙)を見た.フツ族ツチ族という部族同士の対立から始まった犠牲者が100万人と言われる大虐殺をテーマにした悲惨な話だけど,「ホテル・ルワンダ」はホテルが匿ったツチ族の人たちが最後に救出されるのでまだ救いがあった.「ルワンダの涙」はもう何も救いがない.避難民の拠点となった学校から国連軍が撤退するところですべての希望が消えてしまう.「ルワンダの涙」は,新人教師として赴任した白人青年ジョーの視点で描かれている.彼は最後に国連軍とともに学校を脱出する決断をする.娯楽映画だったら,そこに留まって最後まで戦ってヒーローになるだろう.でも現実は留まること=殺されることだった.米国でのタイトルは,"Beyond the Gate"と言う.学校の門の外にはナタを振り回し,銃を持つフツ族民兵が集まり,音楽を鳴らし奇声を上げる.5年後,大虐殺を逃れた少女に「どうして行ってしまったの?」と聞かれたジョーは「死ぬのが怖かったんだ」と正直に答える.彼にはその選択肢しかなかった.
リスク心理学の大御所,Paul Slovic師匠の最近の仕事は,大虐殺と精神的無感覚(psychic numbing)だ.今の関心は,スーダンダルフール.映画を見るまでもなく,何度も繰り返されるアフリカでの大虐殺(ジェノサイド)の一因は先進国の「精神的無感覚」にあることは明らかだ.昨年12月のSociety for Risk Analysis (SRA)で,彼は,欧米が度重なる大虐殺に無反応であることを心理学の理論と実証の両方から明快に説明するというとても印象的な講演を行った.失礼だけど,講演を聴くまでぼくにとってSlovic氏は,様々なリスクをDreadとUnkownという二軸で説明した1987年のScience誌論文の人だった.過去の人だと思っていたことがとても恥ずかしい.このような重いテーマを正面からとりあげ,米国政府やマスメディアまで批判する姿勢に感激した.あのような場では軽妙な話をして笑いをとる人が多い中で,まじめに熱く語る姿はかっこよかった.この日から勝手に師匠と呼ばせてもらっている.Slovic師匠のダルフール関係の最近の仕事は,所属するNPOであるDecision ResearchのDarfurページから見ることができる.