ナノテクノロジーは道徳的に受け入れ可能(morally acceptable)か?

AAASの年会で、University of Wisconsin-MadisonのDietram Scheufele氏がまた最新アンケートの結果を報告したようだ。彼は、Nature Nanotechnology誌の2007年12月号に発表したアンケート調査結果("Scientists worry about some risks more than the public")で、科学者(ナノテク専門家)は多くの場合、一般人よりも、ベネフィット認知が高く、リスク認知は低いが、「環境汚染」と「ヒト健康」だけ、一般人よりもリスクを懸念していることを明らかにした。この話も、共同研究者のCorley氏が同じセッションで発表したようだ。今回のScheufele氏の発表は新たなアンケート調査の結果ではなくて、サンプル数と時期が同じであることから、そのときの一般人アンケートの結果の一部のようだ。アンケートは2007年夏に電話で実施された。1015人の成人のアメリカ人に対して、「ナノテクノロジーは道徳的に受け入れ可能か?」と尋ねたところ、Yesと回答した人は29.5%にすぎなかったという。これに対して英国では54.1%、ドイツでは62.7%、フランスでは72.1%が道徳的問題は無いと回答した。Scheufele教授はこの差を宗教のせいだと考えている。
この調査のおもしろい点は、通常のリスク認知の調査とは別の側面(道徳、宗教)に焦点を当てたことだ。新技術への態度やリスク認知を聞くと、遺伝子組換え技術への態度に顕著に見られるように、通常、欧州の人々の方が懐疑的になる傾向にある。こういう側面ではアメリカ人はもっと楽観的だ。でも、ブッシュ政権の幹細胞研究への態度なんかを見ると確かに、宗教的価値観に少しでも触れるととたんにアメリカ人は慎重(保守的)になる。日本人はどちらの観点から見ても楽観的なのかもしれない。
ただ、まだ詳細が分からないため、いくつか気になる点がある。

  • ナノテクノロジー」と言っても、様々であり、具体的にどのような技術応用に対して「道徳的に受け入れがたい」と感じたのか?(抗菌とか撥水効果での利用程度では道徳的な問題は生じないのではないかと思う。分子レベルでの操作とか、そういうレベルだろうか?)
  • アンケートではナノテクノロジーやその潜在的ベネフィットについて情報提供したというが、具体的にどのような内容を伝えたのか?(アメリカ人は日本人に比べてナノテクの知名度自体は低いために、回答は情報提供の内容に左右されやすい)