Andrew Maynard氏のブログ追っかけ:2月分

2月1日はラベリングの話

話題は、BSIが昨年末に発表した9つの文書(3個のガイダンスと6個のターミノロジー)のうちの1つ"Guidance on the labelling of manufactured nanoparticles and products containing manufactured nanoparticles"(「工業ナノ粒子と工業ナノ粒子を含む製品のラベリングに関するガイダンス」)。Maynard氏は「非常に役に立つガイド」だと賛成したうえで、次の5点に要約。

  • ラベリングに対して標準化されたアプローチを推進する
  • 工業ナノ粒子と工業ナノ粒子を含む製品のユーザーが選択、購入、流通、取扱、使用、処分において情報に基づく決定(informed decisions)を行うという目的のために正しく成分を特定できるようにする
  • 規制当局や各種専門家が、労働、消費者、公衆の環境、健康、安全の問題に関して情報に基づく決定(informed decisions)を行うための情報を提供する
  • ラベルに用いる「ナノ」という用語の使用を標準化する
  • これらのラベルに用いる他の用語の使用に関するガイダンスを提供する

さらに、Maynard氏が注目するのは、この文書作成に関わった組織の広がりだ。先日、ナノテク製品を有機生産物として認めない決定を出したSoil AssociationからNIAをはじめとする各種業界団体までが含まれている。

2月8日はナノテクノロジーのコミュニケーションの話

取り上げられたのはYale Law SchoolのDan Kahan氏らの論文"Biased Assimilation, Polarization, and Cultural Credibility: An Experimental Study of Nanotechnology Risk Perceptions"(偏った同化、分極化、そして文化的信頼性:ナノテクリスク認知に関する実験的研究)。まず、文化理論(cultural theory)に基づき、アンケートに基づいて、人々を2つの対抗軸(階層主義vs.平等主義と個人主義vs.共同体主義)を用いて4グループに分類される。Maynard氏独自の解釈はこんな分類だ。

  • 洗練された「産業界のリーダー」−パワー・スーツをびしっと(個人主義+階層主義)
  • 父親のようなコミュニティ・リーダー−スポーツジャケットとネクタイ(共同体主義+階層主義)
  • さわやかな若い起業家−ノーネクタイ(個人主義+平等主義)
  • ひげの教授−ノーネクタイ(共同体主義+平等主義)

彼らは実験的に様々な主張を聞かされる。そのとき、自分の価値観と似た情報を聞くと、自分の先入観が助長される。つまり、分極化が進む。しかしおもしろいのは、価値観が同じ人が逆の主張をしたとき(例えば産業界のリーダーがナノテク製品のモラトリアムを主張)、人々はそれに従う傾向にある。要するに、メッセージよりもメッセンジャー(誰が伝えるか)が大事ってこと。ただしこれだけだったら、えっ?それだけ?当たり前やん、ってなるんだけど、Kahan氏はさらに進んで"adovocacy pluralism"(主張の多元化)を進めると文化的バイアスは小さくなることも示している。これってまさに、PBSのテレビ番組"Power of Small"で実践されたことだ。

2月15日は欧州委員会の行動規範の話

話題は2月7日付けで欧州委員会から最終版が発表された"code of conduct for responsible nanosciences and nanotechnologies research"(pdf)(責任あるナノサイエンスとナノテク研究のための行動規範)。Maynars氏はこれと2007年11月に米国(OSTPとCEQ)で発表された覚書(pdf)(ここで全訳した)を比較して、ナノテク開発に臨む姿勢をウサギとカメの話に例える。つまり、資金も豊富にあってイノベーションにまっすぐ突き進むようなモデル(=ウサギ)と、ゆっくりだけど着実に思慮深く進んでいくモデル(=カメ)。つまり米国と欧州。Maynard氏はやはり欧州モデルが好みのようだ。

2月21日はNNIのEHS研究戦略の話

テーマは、米国National Nanotechnology Initiative(NNI)から長らく待たされた(さんざん遅いと指摘されてきた)"Strategy for nanotechnology-related environmental, health and safety research"(pdf)(ナノテク関連の環境健康安全研究のための戦略)が発表されたこと(ここで取り上げた)。これについての感想は書きたくなさげ。まず、来年出る予定のNational Academiesのプロジェクト"Review of the Federal Strategy to Address Environmental, Health, and Safety Research Needs for Engineered Nanoscale Materials"の報告書を待て・・・と言いつつ、待てない人はEnvironmental Defenseが始めたblogの最初のエントリーを見ろと。Denison氏は一言で"It’s got good, bad and ugly”とまとめている。ちなみに、goodな点はようやく少し戦略っぽくなったこと。badな点はそれでも依然として戦略としてのカギとなる要素が見えてこないこと。そしてuglyな点については重要なので次のエントリーで。