EPAによる「ナノスケール材料スチュワードシッププログラム(NMSP)」のまとめ(その1)

まず、Nanoscale Materials Stewardship Program(NMSP)についての基礎知識をまとめておこう。NMSPは2008年1月29日にスタートした、ナノ材料を扱っている企業による自発的な情報提供プログラムである。ここではナノ材料がTSCAにおいて新規化学物質であるか既存化学物質であるかは問わない(※)。提供が期待されている内容は、ナノ材料の物理化学的特性、有害性情報、曝露情報、リスク管理対策の情報など。
※工業ナノ材料は「新規化学物質」であるか「既存化学物質」であるかという問いに対して、EPAは「ナノスケール材料のTSCAインベントリステータス−一般的アプローチ」という文書を作成し、これまで通りの判断基準(分子的同一性を基準とし、サイズなどの物理的特性は考慮しない)をケースバイケースで適用していくことを宣言した(和訳pdfを参照)。具体的には、炭素の同素体である、MWCNT、SWCNT、フラーレンなどは新規化学物質だけど、ナノサイズの二酸化チタンや銀などは既存化学物質となる。
基礎的プログラム(Basic Program)とIn-Depth Program(詳細プログラム)からなる。前者はいま手持ちの情報のみを提出するだけでOKだけど、後者はEPAと相談しながら費用をかけて(動物実験等を行い)新たなデータを生み出す必要がある。基礎的プログラムの期間は半年、つまり2008年7月28日に締め切られた。
スタートから1年後、すなわち2009年1月に中間報告が出され、最終報告は2年後、つまり2010年1月頃を予定している。このときに、両プログラムの将来の方向性(TSCAに基づく規制権限の利用の検討も含む)について決定されることになっている。もちろん状況によっては早まる可能性もある。
基礎的プログラムは、開始翌日にDuPont社が提出し、「われわれはNMSPを支持します」と宣言するプレスリリースを打つなど、華々しくスタートしたものの、6月末までに提出したのは3社のみという状況だった。そのため、7月半ばには3つの業界団体がNMSP支持の共同声明を出す(リンク)など最後の追い上げもあって、最終的には22事業者から93のナノスケール材料についての情報提供があったようだ。この「数字」については、プログラムの開始当初、EPAは「Basic Programには180事業者から240の提出、In-Depth Programには15事業者が参加」と見積もっていたために(その後100物質に下方修正したらしい)、「予想を大幅に下回る参加」という評価もあるが、「最初としてはまずまず」という見方も多い。