論文「カーボンナノチューブの抗菌効果:サイズが問題だ!」

"Size does matter!"という主張が入ったタイトルが気になり読んでみた。不純物を除いてキャラクタライズされた単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(直径0.9nm、長さ2μm)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)(直径30nm、長さ70μm)が対象。実験結果をまとめるとこんな感じ。

両者の懸濁液あるいは両者をコーティングしたフィルターで大腸菌 (E.coli)細胞を培養して細胞活性を調べた結果、コントロールとMWCNTに比べて、SWCNTで最も細胞の不活性率が高く、代謝活動が低かった。また、培養液中に流出したプラスミドDNAとRNAの濃度を計測したところ、SWCNTで圧倒的に高かった。SEM画像でも、SWCNTに曝露した細胞は形が崩れ平坦になっていることが分かる。これらの証拠から、SWCNTが(そのサイズの小ささゆえに)細胞膜に作用し細胞を不活性化させている可能性が高い。さらに、DNAマイクロアレイを使った遺伝子発現研究でも、SWCNTに曝露した細胞で発現した遺伝子の数が圧倒的に多かった。

ナノ材料の有害性発現メカニズムに関しては、粒子仮説(小さいほど有害)と、繊維仮説(長いほど有害)がある。前者は、バルク形態に対してナノサイズになると有害性が増すという仮説で、以前から主張されている。後者は、Poland et al. (2008)で一躍脚光を浴びた仮説で、特にカーボンナノチューブのような繊維状物質において繊維が細長いほど有害性が増す(=アスベストのようになる)という仮説だ。

この論文の主張は、CNTについて、アスペクト比が同程度のMWCNTとSWCNTの細胞毒性を比較して、単層の方が短いゆえに細胞との接触面積が増え、有害性が増すというものだ。つまり、繊維状物質に対して「粒子仮説」を主張するというちょっと捩れた関係にある。でも、彼らの仮説をさらに検証するには、SWCNTとMWCNTの比較だけじゃなくて、SWCNTやMWCNTのそれぞれの中で、長さの異なるものを比較しないといけないんじゃないかなあ。