米国での鉛の大気環境基準値をめぐる議論

米国のClean Air Act関係でオゾンに続いて鉛でも興味深い事態になっている(news).鉛はオゾンやPMとともに,6つのクライテリア物質のうちの1つ.これは有鉛ガソリンの時代の名残り.鉛の大気中濃度は1983年から2002年に94%も減った.
日本では体内に入る鉛のほとんどが経口(8割以上が食品)で,大気経由はほぼ無視できる(link).2006年にはCriteria文書の最終版(Air Criteria for Lead)が完成した.これを受けて12月に発表されたStaff Paperのfirst draftで,鉛をクライテリア物質からdelistしてはどうかという提案がなされた.また,安全レベル(つまり,閾値)を決めることができないと結論した.これはCASAC(大気清浄科学諮問委員会)も承認している.ここでまたオゾンやPMと同様の問題が出てくる.CAAの文面"adequate margin of safety"だ.文字通りに解釈するとものすごく低い環境基準値を提案せざるをえなくなる.
鉛はクライテリア物質としてだけでなく,HAPs(有害大気汚染物質)の1つとしても規制されている.現実的な選択肢は,クライテリア物質としてはdelistして,HAPsの1つとして主要な発生源対策だけ継続するというものか?と思ったけど,HAPの規制は,生物学的弱者を対象としているクライテリア物質の規制より緩くなり,高排出事業所の周辺の住民の健康を保証できないそうだ.日本だったら公害防止協定とか自治体の条例なんかでなんとかなる気がするけど米国ではそういう仕組みはないのかな.