Society for Risk Analysis 2007 Annual Meeting報告(その1)

米国San Anotonioで開催。暑かったり寒かったりしたが会場内は常に冷房が効いていて寒かった。冬なのに。でもSRAの年会自体は昨年あたりからとてもおもしろくなったように思う。Kimberly Thompson会長の努力のおかげだろう。次期会長には、Grahamとの共著"Risk vs. Risk"でおなじみのJonathan Wiener氏が就任したのでさらに期待。
今回の収穫は、A)規制影響評価(RIA)コミュニティ、B)ナノリスクコミュニティ、C)経済分析コミュニティの3つの関係者たちとそれぞれ情報交換できたことだった。C)では以前日本に招待したことのあるEPA環境経済学者Dockins氏と久々の再会を果たした。

1日目の全体セッション

Plenary Sessionでは、New York大学の 脳科学者であるJoseph LeDoux氏からは恐怖や不安が起こる脳内メカニズムについて,Columbia大学の心理学者であるElke Weber氏からは期待効用理論を超える様々な理論についての講演があった.「予習その1」で紹介したように、LeDouxはギタリストでもあり、ちゃんと事前に彼のバンドのCDを購入してiPodに入れて予習(?)していった。LeDoux氏の専門分野は「感情」であり,新たに彼をトップに据えた"Emotional Brain Institute (EBI)"という組織が発足し、感情の神経科学とそれが行動に与える影響の研究が始まるようだ。次期会長のWiener氏が両者を紹介する際に、過去10年間のスピーカーを並べてみて脳科学分野の欠落に気が付いたと発言した。SRAの守備範囲の広さを再確認するとともに、心理学的側面を追及すると必ず脳科学まで行き着くという学問的必然性も反映している。昨年の大会では、リスクコミュニケーションを進化論の観点から考えるというセッションもあり、この流れで来年は進化心理学者あたりが呼ばれるのかもしれない。Steven Pinker氏だったらうれしいなあ。

規制影響評価(RIA)

M2-B「シンポジウム:3者による規制協力:米国,カナダ,メキシコにおけるルール形成とリスク解析」(Symposium: Trilateral Regulatory Cooperation: Rule Making and Risk Analysis in the U.S., Canada and Mexico)では、米国の行政予算管理局(Office of Management and Budget: OMB)のMancini氏、カナダの国家財政委員会事務局(Treasury Board of Canada Secretariat)のGiraldez氏、メキシコのCOFEMER(規制改善委員会)のQuezada-Bonilla氏がそれぞれ自国の規制影響評価の現状を報告した。
米国OMBに関する報告はだいたい知っている内容だったけど、唯一の新情報は、分析する「影響」の範疇に国際的な影響も含める方向に進んでいるという点だった。現在、EUSecretariat General(事務総局)との共同draftを作成しており、2008年半ばに最終案を発表する予定だそうだ。
カナダのRIAには(不覚にも)あまり注目していなかったが,2007年には数多くの進展があったみたいだ。1つは「トリアージ(triage)フレームワーク」の導入。これは欧州では比例(proportinality)原則と呼ばれているもので、法規制が重要であればあるほど詳細に評価を行うべしという原則だ。カナダで導入されたトリアージは、13の影響項目にそれぞれ"low", "medium", "high"の評価をし、すべてlowなら"Low"、1つでも"medium"があったら"Medium"、1つでもhighがあったら"High"となる。それぞれのRIAにtemplateが用意されている。そもそもカナダでは1999年11月の"Government of Canada Regulatory Policy"(pdf)によって、すべてのsignificantな規制提案について費用便益分析を実施することが義務付けられた。この文書は2007年4月の"Cabinet Directive on Streamlining Regulation"(pdf)に更新された。政府の費用便益分析ガイドラインは最初のものが1995年に発表された("Benefit-Cost Analysis Guide for Regulatory Programs")。2007年にはそしてこの要求に対して、(暫定版の)新しい費用便益分析ガイドライン("Canadian Cost-Benefit Analysis Guide: Regulatory Proposals")(pdf)が発表された。また、Directiveが要求する高度な分析にも対応できるように、Centre of Regulatory Expertise (CORE)が新設され、センター長と5名の専門家が省庁にアドバイスを提供する仕組みができた。プレゼンをしたGiraldez氏によれば、カナダのTreasury Boardは、米国OMBよりも強い権限を有しているとのことだった。
メキシコでは、連邦行政手続法改正によって2000年に設立された"COFEMER"(規制改善委員会)についての詳しい紹介があった。遵守費用が生ずる場合は、規制影響評価(RIA)が義務付けられ、RIAのdraftはまずCOFEMERに送られ、reviewされ、opinionをもらう仕組みになっている。遵守費用が発生しない場合は、RIA免除申請を行い、COFEMERの承認を得る。また、public consultationの実施も義務付けられている。RIAは最終的にはOfficial Gazetteに掲載される.RIAシステムを強化するため、2007年2月には大統領令"Regulatory Quality Order"が出された.これらの資料はスペイン語のようなので、同様な内容はOECDの会議でプレゼンしたときの資料(pdf)で確認することができる.