Society for Risk Analysis 2007 Annual Meeting報告(その3)

2日目午前いろいろ

この日のplenaryはパスして、1つ目のセッションT2-B「リスク政策への観点:トレードオフ,累積的リスク,分配面への影響,専門家の見解」に参加。座長は、OMBを退職して、再び学術界に戻ってきたJohn Graham氏。最初の報告はAdam Finkel氏によるリスクvs.リスク再考というような内容。最初は、1995年に出版された、Graham & Wiener編の"Risk vs. Risk"をはじめとする文献レビュー。続いて、代替リスクについて、"risk homeostasis", "risk hubris", "risk clouseau", "risk magoo"という整理が提示された。ぼくのメモには、risk homeostasisには"third law of Risk"とある(これはよく分からない)が、Gerald J.S. Wilde氏が提示した仮説だ。最近日本語訳された『[交通事故はなぜなくならないか:title=交通事故はなぜなくならないか]』で有名。人間は受け入れ可能なあるリスクレベルをあらかじめ持っており、たとえ政策でリスクを下げたとしても、再び最初のレベルまでリスクを上げてしまうような行動をとるという仮説(理論)。次の、risk hunrisには"small and opposite reaction"というメモ。hubrisには自信過剰という意味があるのだけど分かりそうで分からない。3番目のrisk clouseau。"clouseau"はどうも英国映画「ピンクパンサー」シリーズからの登場人物である"Inspector Clouseau(クルーゾー警部)"から来ているらしい。4番目のrisk mangooの"mangoo"はパイ投げのパイという意味。このあたりはさっぱり意味が分からない。続いて、リスクトレードオフに関しては,1)"sham tradeoff"(見せかけのトレードオフ), 2)"risk inevitability"(必然のリスク?), 3)"risk overkill"(やり過ぎのリスク?)という分類が示された。こちらはもうちょっと分かりやすいかな。また、OSHAでの勤務経験で扱ったトレードオフ事例として,ジクロロメタンからアセトンへの代替、第三世代エアバッグ、魚類中の水銀レベルへの警告表示などの例が挙げられた。なお、Albert O. Hirschman氏の1991年の著書も引用されたが、これは和訳が『反動のレトリック―逆転、無益、危険性』として出ている。"Reversity"は逆転、"Futility"は無益、"Jeopardy"は危険性と訳されている.
2人目は、Matthew D. Adler氏。Pennsylvania大学のLaw School教授。法学者だけど、経済学、特に厚生経済学にも造詣が深く、近年は不平等や不確実性を費用便益分析にいかに組み込むかについての研究を行っている。「法と経済学」の分野の大御所であるEric A. Posner氏とも、2000年に"Cost-Benefit Analysis: Legal, Economic, and Philosophical Perspectives"、2006年には"New Foundations of Cost Benefit Analysis"を共著で出している。発表内容は、社会厚生関数に衡平性(equity)を組み込む、具体的には不平等回避パラメータ(y)を組み込むという理論的な話で、会場で理解できていた人はごくわずかだったはずだ。ちなみにyは社会的計画者の立場にたってもらいアンケートによって決めるそうだ。彼はこのアプローチは既存のアプローチ(リスク衡平性に関する「環境的公正」概念、「個人リスク」アプローチ、QALYに基づく衡平性解析、分配ウェイト付きの費用便益分析)よりも優れていると主張する。ついでに彼の最近の論文にもリンク(これとかこれ)。