とうとう始まったTSCAによるナノ材料規制(その1)

TSCA(Toxic Substances Control Act)と工業ナノ材料の関係については様々な議論があるが、工業ナノ材料は「新規化学物質」であるか「既存化学物質」であるかという問いに対して、EPAは「ナノスケール材料のTSCAインベントリステータス−一般的アプローチ」という文書を作成し、これまで通りの判断基準、つまり分子的同一性(molecular identity)を判断基準とし、サイズなどの物理的特性は考慮しないことを再確認した(和訳pdfを参照)。具体的には、炭素の同素体である、MWCNT、SWCNT、フラーレンなどは新規化学物質だけど、ナノサイズの二酸化チタンや銀などは既存化学物質となる。
新規化学物質を生産・輸入する場合は、その90日前までにPMN(製造前届出)を提出する必要がある。そのため、CNTを生産するためには新規物質としてPMNを提出する必要がある。その第一号が現れたようだ。その会社が、英国のThomas Swan & Co. Ltd.で、NMSPの基礎的プログラムと詳細プログラムの両方に参加しているSwan Chemicalsの親会社だ。Elicarbというブランドで、単層と複層のカーボンナノチューブを生産している。同意指令の対象は複層カーボンナノチューブ(MWCNT)の方だ。Swanは続いて単層CNTについてもPMNを提出するようだ。親会社の9月15日付のプレスリリース"Swan pioneers nanomaterial controls with EPA"において、EPAから同意指令(Consent Order)を受け取ったことを明らかにした。同意指令とは、PMNレビューの結果の1つの形で、EPAが「ある特定の条件と合意された予防のもとでは、unreasonable riskを課さない」と判断した場合、逆に言うと、他の条件のもとでは、潜在的にunreasonable riskを課すと判断した場合に発せられるものである。TSCAのSection 5(e)に基づく。同意指令には、Risk-basedのものとExposure-basedのものがあり、今回は前者が適用された。同意指令には標準フォーマットがある(pdf)。
Environmental Defense FundのRichard Denison氏はまっさきにSwanの同意命令を入手したようで、ブログ"Nanotechnology Notes"の中で、10月9日と13日の2回に分けて検討を加えている。同意指令の内容については垣間見ることができたのだけど、とうとう別のブログ"Nanotechnology Law Report"において、John C. Monica, JR.氏が、同意指令の全文(pdfで37ページ)をアップしてくれた。