とうとう始まったTSCAによるナノ材料規制(その2)

同意指令において、EPAがSwan Chemicalsに要求した項目の要旨は以下のとおり(同意指令では会社名も秘匿扱いだったけど、Thomas Swan & Co. Ltd.がプレスリリースで自慢したためにバレてしまった)。8つある。

  1. PMN物質のサンプルを1グラムにMSDSの写しを付けてEPAに提出
  2. 曝露後3か月の観察期間伴う、ラットを用いた90日間吸入試験(気管支肺胞洗浄液(BALF)分析も含む)の結果を、(a)PMN物質の[____]kgの製造あるいは輸入、(b)PMN物質の免除規定を上回る量の商業生産開始から[____]年[____]か月、のいずれかのうち早く来た方から少なくとも14週(98日)前にEPAに提出。これらの生産量や時期の制限は、企業がこの同意指令に署名してから2年後に計算される。
  3. PMN物質の免除規定を上回る量の商業生産の開始から6か月以内に、物質の一定のキャラクタリゼーションデータをEPAに提出
  4. ナノスケール粒子を通さない手袋や化学保護衣を着用
  5. 労働現場で曝露する間は、N-100カートリッジ付きの、NIOSHが認可したフルフェイスの呼吸器を使用
  6. PMN物質を[____]としてのみ使用
  7. PMN物質の配布は、(本指令と)同じ制限(試験要求を除く)に従うことを同意する人に限定
  8. 一定の記録を保持すること

項目6の空欄は、用途情報であるので秘匿事項であるが、項目2の空欄は秘匿事項なのか、それとも2年後に計算すると書かれていることから未決定で空欄なのかよくわからない。
そのほかいろいろな事実が分かった。

  • PMNには有害性試験データはまったくゼロだったということ。
  • EPAは、ヒト健康影響については他の粒子や他のカーボンナノチューブからの類推によって健康影響の懸念ありと判断したこと。名指しはしていないが、Poland et al.レターの影響が見て取れる。
  • 他方、環境影響については、"no significant effects expected"としている。つまり、十分な情報がない=リスクの懸念なし、という原則が適用されている。だから今回は試験の要求がない。このあたりは欧州のREACHとは哲学が異なる。
  • EPAはSwanに、NMSPの詳細プログラムに参加を通して、他のMWCNT生産企業と共同で有害性試験を実施することを勧めている。それが実現すれば、この同意指令での試験要求(項目2)は撤回すると言っている。
  • 労働者曝露と環境排出量データも載っている。サイト数と労働者の人数は秘匿だけど、労働者曝露は用途1と2ともに吸入0.02mg/日、経皮1600&3100mg/日、水系への排出は13kg/日となっている。

項目3の「キャラクタリゼーションデータ」の具体的な中身は次の通り。
A. MWCNTのタイプ;同心円筒か渦巻き型か、層やチューブの数
B. ナノチューブの端の形状(例えば、オープン、キャップ)
C. 分岐の有無や状態
D. 幅あるいは直径(平均値とばらつき)
E. 炭素単位格子の員環のサイズと結合性(例えば、通常は六員環だが他のサイズも含みうる)
F. 長軸に沿ったナノチューブの配列(例えば、直線、湾曲、歪曲)
G. クルクル巻いた際の六角形配列の方位(例えば、armchair, chiral, zig-zag);対掌性あるいはねじれ角(六角形配列の軸とナノチューブの長軸の間の角度)
H. ナノチューブ製造に使用された触媒の粒子サイズ
I. 分子重量(平均とばらつき)
J. 粒子の特性:形状、サイズ(平均と分布)、重量(平均と分布)、数量、表面積(平均と分布)、表面積体積比率、凝集塊/凝集体(aggregation/agglomeration)