Andrew Maynard氏のブログ追っかけ:カーボンナノチューブのリスク管理の話

3月17日は、カーボンナノチューブのリスク管理の話。英国HSE(Health and Safety Executive)が"information sheet"という形で、5ページの「カーボンナノチューブのリスク管理」を3月6日、発表した。"information sheet"は法的拘束力がないガイダンス文書であるが、これに従っておけば、法規制へのコンプライアンスは十分に達成できるだろうと最後に明記されている。Maynard氏のまとめとコメントは以下のとおり。けっこう辛口だ。

  • HSEは予防的アプローチ(precautionary approach)を推奨。これはもっともだ。ただし人によって定義が違うかもね。
  • CNTの製造、使用、研究での曝露に言及しているのに、CNTを含む製品の取扱いへの言及がない。確かに製品中から飛散することはなさそうだけど、予防的アプローチでは曝露可能性がないかどうか探ることは最低限必要だろう。
  • 毒性についてアスベスト様の影響にしか言及がない。凝集した粒子としての有害影響も指摘されているので片手落ち。
  • 吸入毒性が明らかでない以上CNTの使用をできるだけ控えるように、と言っているように見える。このあたりは経済的ベネフィットとのトレードオフだ。
  • 労働衛生的には耳障りの良い言葉が並んでいるし、実施すれば曝露人数も曝露量も減るだろう。でも実行可能なのかなあ。特にドラフトチャンバーの中でやれとか、材料をウェットにしておけとか。
  • 「最善をつくす」的な定性的な言葉が並ぶ。どこまでやれば十分なのかという視点が欠けている。こうした場合にありそうな結末は、多くの人が過度に低いレベルを目指す一方で、ごく少数の高濃度曝露のまま残される。
  • このinformation sheetを発表したこと自体はHSEを褒めるが、労働者の安全を効果的に保護し、ナノテクビジネスに対してやり過ぎない程度に正しい対策を行わせるのに十分かどうかは疑わしい。
  • 他の情報ソースへのリンクがないこともダメだ。
  • もし私が労働安全担当者だったら、もっと違うアプローチをとっただろう。

Maynard氏ならどんなアプローチをとったかは明記されてないんだけど、付記には、既存の労働安全ガイダンスとともに、「コントロールバンディング(Control Banding)」に関する文献へのリンクが張ってあり、Maynard氏の回答はこれだと思われる。文献は、Paik氏らの論文と、この考え方が取り入れられたカナダのケベック州のIRSSTとCSSTとNanoQuebecが作成した「ベストプラクティスガイド」の2つ。