NHKへの支払意思額調査の解釈方法

NHK"約束"評価委員会が(個人的に待ちに待った)報告書を発表した.この報告書を受けて,マスメディアは次のような見出しで報道している.NHK自身も「CVM調査によりNHKの創出している価値に対する支払い意思額が受信料額を上回る一定程度の規模になったこと」と言っている.でも後で述べるようにこの解釈はとてもおかしい.全然上回っていないのだ.だまされないようにしよう!

まず,解釈以前の問題として,報告書にはCVM調査の質問票が載せられていないし,質問方法がオープンエンド(直接「いくらまでなら支払ってもよいですか?」と尋ねる)なのか,支払カード法(選択肢の中から選んでもらう)なのか,二肢選択法(価格を提示してyes/noで回答してもらう)なのかさえ分からない.CVM調査は質問文や質問方法によってバイアスを受けやすいことは常識で,質問票を載せていない時点でこの報告書は不合格だし,その姿勢そのものを疑問視せざるをえない.ということで,ここで終わってもいいんだけど,百歩譲って内容を見てみよう.

今回,当委員会は平成18年4月に,全国から層化2段無作為抽出法で抽出した3,600名の個人を対象として,WTPWTAの調査対象が重複しないようサンプルを2分し,面接方式でCVM調査を実施した(有効回答者2,018,有効回答率は56.1%,WTPWTAの回答はそれぞれ1,009ずつ).調査対象とする放送サービスは,地上放送(総合テレビ,教育テレビ,ラジオ第1放送ラジオ第2放送,FM放送)と衛星放送(衛星第1テレビ,衛星第2テレビ,デジタル衛星ハイビジョン)とに分けて,地上及び衛星のWTPもしくはWTAを尋ね,その値を集計して,NHKの放送サービスの金銭的価値を算出する方法をとった.

この結果,次のような数字が得られた.

当委員会は実施したCVM調査の結果に基づきNHKの放送サービスの現在価値を計算すると,地上放送(略)は視聴者一人当たり月額1,780円,衛星放送(略)は視聴者一人当たり月額約1,245円となる.この金額は,経費の積み上げに基づいて算出された現行の受信料の月額(カラー契約月額1,395円,衛星カラー契約の衛星付加分945円.いずれも訪問集金の場合)を上回っている.

しかし,ここで数字に騙されてはいけない.この数字はあくまで「平均値」だ.図表18と図表19にあるように,回答WTP額の分布は右に尾を引く対数正規分布に近い.その場合,平均値は中央値を大きく上回る.地上放送のWTPで,平均値の1,780円を上回る額を回答した人が182人(25%)であるのに対してそれ以下の額を回答した人は520人(75%)に上る.つまり,平均値以上を支払ってもよいと回答した人は4分の1しかいないのだ.「受信料,高くてOK」な人は4人に1人しかいないのだ!マスメディアの見出しとのギャップは大きい.現行の受信料よりも低いWTPを回答した人は20%近くいる.衛星放送でも.平均値である1,245円を上回った回答者は151人(32%)であるのに対してそれ未満の額を回答した人は318人(68%)だ.現行の受信料よりも低いWTPを回答した人は35%もいる.
要するにどういうことかと言うと,このWTP額分布が全国民のものを代表しているとして,国民の8割がYesという金額にするなら現行のまま,国民の9割がYesという金額にするなら500円以下にしなければならないということだ.

そのほか,ツッコミどころは多々ある.例えば,半数にはWTPでなくてWTAを尋ねたんだけど「『いくら補償金を貰おうともNHKの放送サービスを取り止めることには反対である』などの理由でWTA価格の回答を拒否する視聴者が非常に多数にのぼった」というのも怪しい.月に10万円もらえるならNHK無しの生活は楽しいだろう.どんな文面で質問したのだろうか?